デジタル化が進展し、「紙の総量が減っている」と言われるなど、印刷・製本業界には逆風が吹いているが、その中でも安定した見通しを持ち、製本機という分野で世界トップクラスのシェアを守り続ける企業が京都にある。1946年創業の製本関連機器メーカー、株式会社ホリゾンだ。
同社は開発から製造、販売までを一貫して手がけるグローバル企業であり、現在は印刷後加工の自動化やスマートファクトリー化を推し進めている。
2024年に社長に就任した堀英陽氏は、大手メーカーの研究職を経て家業に戻り、海外営業や人事責任者を経験。技術力のある組織に「主体性」を根付かせるべく、人事制度から企業文化までを抜本的に見直してきた。
京都の地から世界の出版文化を支える、同社の経営哲学と未来への展望を堀社長に聞いた。
印刷・製本業界の「多品種小ロット」化をとらえる戦略
── ホリゾンは製本機という分野で世界的に高いシェアがありますが、現在の事業環境と、市場での立ち位置について教えてください。
堀 当社の事業は、印刷された紙を本や冊子の形に加工する「製本機」とその周辺機器の開発・製造・販売が中心です。
主力としているのは紙折り、丁合、中綴じ、無線綴じ、断裁といった、印刷後の「加工」に関わるあらゆる工程の機械です。売り上げの構成比でいえば、製本機関連がほぼすべてを占めており、たとえば「Tシャツくん」ブランドによるウェアプリント関連などその他は数%にすぎません。
現在、印刷業界全体で見れば紙の総量は確かに減っています。
しかし、その内実を詳しく見ると、かつてのような大量生産・大量消費のモデルから、多品種小ロットのモノづくりへと大きくシフトしています。
たとえば、書店に並ぶ本全体の部数は減っていても、タイトルの種類(数)は逆に増えているんです。一冊単位の「パーソナライズされた本」への需要も世界的に高まっています。
── 業界が縮小しているというより、求められる「形」が変わってきていると。
堀 その通りです。大量生産が減る一方で、オンデマンド印刷の普及によって「必要な時に必要な分だけ作る」スタイルが主流になりつつあります。
ただし、これは「大量生産やオフセット印刷の時代が終わる」という意味ではありません。むしろ、これまで日本の素晴らしい出版文化を支えてこられた職人の方々の高度な技術や、高品質な大量生産のノウハウがあるからこそ、私たちの自動化技術も磨かれてきました。大ロット印刷の持つ圧倒的な美しさやコストパフォーマンスは、今後も間違いなく不可欠なものです。
こうした既存の素晴らしい技術や歴史へのリスペクトをベースにしながら、変化する市場に寄り添うことが当社の姿勢です。
ホリゾンが今まさに強みを発揮しているのは、この伝統とデジタルが交差する領域です。デジタルプリンターで出力された多種多様な印刷物を、いかに効率よく、人手をかけずに一冊の本に仕上げるか。私たちは製本工程の「自動化」と「デジタル対応」を他社に先駆けて進めてきました。
現在はこれをさらに推し進め、工程間の搬送も含めて自動化する「スマートファクトリー」の実現に注力しています。多品種小ロット化が進む市場のなかで、現場で働く人々の負担を軽減し、持続可能なものづくりを維持するためのデジタル化や「省人化・無人化」の需要は、今後10年も社会から求められ、成長し続けると確信しています。
グローバル展開と「グローバルニッチトップ」としての強み
── 海外売上比率が高いそうですが、グローバル市場でこれほど高い評価を得ている要因は何でしょうか。
堀 当社の海外売上比率は7割に迫る勢いで成長しています。海外で評価をいただいている要因の一つは、製本という極めてニッチなマーケットにおいて、開発から製造、販売、アフターサービスまでを一貫してグローバルに展開している点です。製本後の加工工程における主要な5つの工程(紙折り、丁合、中綴じ、無線綴じ、断裁)をすべてカバーし、システムとして提供できるメーカーは世界でも数社しかありません。
私は以前、ドイツの販売子会社である「Horizon GmbH」に赴任していましたが、そこで感じたのは、お客様との直接の対話がいかに重要かということです。販売店の方々と密に連携し、共に現地のニーズをダイレクトに吸い上げて製品開発に活かす。そうした地道なネットワーク構築が、現在のシェアにつながっています。
── 日本と海外、特に欧米の市場で求められるものに違いはありますか?
堀 本質的には同じですが、欧米では日本以上に「人手不足」が深刻であり、省人化・無人化への投資意欲が非常に高いです。そのため、私たちの提案する自動化ソリューションが非常に高く評価されます。
現在、売り上げの約7割が海外ですが、欧米でのシェアは極めて強固です。
一方で、アジア圏などはまだ人件費との兼ね合いもありますが、長期的には確実に自動化の流れが来ると見ています。
会議体から見直した、組織を機能させるための改革
── 組織を率いる上で、大切にされている指針はありますか。
堀 私がベースにしている考え方の一つに、スティーブン・R・コヴィー氏の『7つの習慣』があります。私が社会人になって数年目、20代の頃に読み、非常に感銘を受けました。今でも私の「参考図書」であり「推薦図書」です。
特に大切にしているのが、第1の習慣である「主体的である」ということです。ビジネス環境がどうであれ、自分たちでコントロールできることに集中し、自ら判断して行動する。自分の人生を、自分の手で動かすという感覚ですね。この「主体性」こそが、ホリゾンという組織を強くする鍵だと考えています。
── その考え方は、社員の皆さんにも浸透しつつありますか。
堀 はい。当社のVALUES(大切にする価値観)においても、「主体性(All in your hands)」を最上位に掲げています。指示を待つのではなく、社員一人ひとりが仕事に対してオーナーシップを持ち、「Win-Winの関係」をお客様やパートナー企業と築いていく。
「情けは人のためならず」と言いますが、周囲に価値を提供し続けることが、結果として自社のサステナビリティ(持続可能性)を担保することにつながります。理念は壁に貼ってあるだけでは意味がありません。日々の業務、一つひとつの経営判断において「その行動は理念に沿っているか」を問い続ける。そうした地道な積み重ねによって、少しずつですが社員の意識が変わってきたと実感しています。
京都という土地が育む「信頼」と、出版文化への思い
── 御社は1946年に京都で創業され、現在も京都を拠点にされています。京都という土地でビジネスをすることの意義をどうとらえていますか。
堀 まず京都は、日本の近代印刷技術の重要な発祥・発展地の一つとされています。江戸時代から続く木版印刷に加え、明治以降に写真印刷技術が導入されたことがその由縁だそうです。その京都で印刷に関わることに誇りを持っています。
その京都には、数百年の歴史を持つ企業が当たり前のように存在します。その中で私たちの80年という歴史はまだ「後発メーカー」という意識があります。
しかし、そうした環境だからこそ、京都という土地が育んできた「信頼関係を重んじる文化」には深く共感しています。
単に自社の利益だけを追うのではなく、地域やパートナーとの長い付き合いを大切にする。こうした姿勢は、海外のお客様からも「京都の企業」として信頼をいただく大きな要因になっています。「千年の都」という重み、そして大学などの教育機関が豊富にある環境は、ものづくりを続ける私たちにとって大きな財産です。
── ホリゾンのビジョンには「世界中の文化を今よりちょっとリッチにしたい」という言葉がありますね。
堀 私たちは、本という媒体が持つ豊かな文化を信じています。デジタル化が進み、情報はスマートフォンで瞬時に手に入りますが、紙の手触りやインクの匂い、ページをめくる体験は、デジタルでは代替できないものです。後世に残すべき文学や写真、教育のための教科書など、「形として残したい」という人間の欲求は、今後10年、20年経ってもなくなることはありません。
私たちの使命は、そのような「良い本を作りたい」という世界中の人々の思いを、技術で支えることです。製本という最後の工程を高品質かつ効率的に行える環境を提供することで、世界中の出版文化の発展に貢献し続けたい。それが、私たちの描く「輝く未来」です。
次なる挑戦、そしてバトンをつなぐ責任
── 今年は創業80周年という大きな節目でもありますね。
堀 はい。この80周年というタイミングに合わせて、記念のロゴマークも制作しました。
これまでの歴史とお客様との信頼関係をベースにしながらも、当社のビジョンである「Change the focus(視点を変える、発想が変わる、未来が変わる)」を体現し、次の100周年に向けて新しい価値を創造していく決意を込めています。社内外に向けて、私たちがこれからどう進んでいくかを示す良い機会になったと感じています。
── 今後の展望、特に2030年に向けた目標をお聞かせください。
堀 まずは現在の中期経営計画を確実に達成することです。製本機という主軸をさらに磨き上げつつ、周辺領域の事業も育てていきたいと考えています。
現在は主軸である製本関連機器が売り上げの大部分を占めていますが、グループ全体のサステナビリティやさらなる成長を考えると、周辺領域の事業をさらに拡大し、柱を増やす必要があります。
その挑戦として私たちが注力しているのが、これまで培ってきた自社の高い製造技術を生かした新規事業の展開です。
具体的には、自社で開発から製造までを手がけるアウトドアブランド「GREBE WORKS」(グリーブワークス)を立ち上げ、新たな市場の開拓に挑戦しています。中期的な目標として、こうした製本以外の新規事業や周辺領域における売上比率を5%から10%へと引き上げる方針です。
私たちは現在、協働ロボットなどを活用した印刷後加工の自動化や工程間搬送の自動化、すなわち「スマートファクトリー」を力強く推進しています。
印刷後加工の現場において、自動化をさらに進化させた「無人化への挑戦」を続けており、そこで蓄積したノウハウを他の製造業へも横展開することで、「ものづくりの工程間搬送の自動化」を支援するビジネスを現在進行形で精力的に発展させています。
ただし、私たちが追求する自動化や無人化は、決してこれまでの手仕事や、古い機械を大切に使ってくれている現場の職人技を否定するものではありません。
むしろ、その素晴らしい歴史とお客様との絆があるからこそ、今のホリゾンがあります。私たちの真の目的は、現場の深刻な労働負担を減らし、働く人々がより付加価値の高い業務に集中できるようにすること、そしてどんな時代もお客様に誠実に寄り添い続けることです。
2026年秋の完工に向けて建設を進めている新京都本社は、まさにこの次なる未来のものづくりを世界へ向けて発信・実証するグローバル拠点となります。業界全体の深刻な人手不足や、ますます多品種小ロット化する市場の課題を解決するためには、デジタル化と自動化による「省人化・無人化」の仕組みが不可欠です。
どれだけ高度なテクノロジーを導入しても、それを生み出し、お客様に合わせた最適なシステムへとコントロールするのはどこまでいっても人間のアイデア。新本社では、部署や職種の垣根を超えて自由にコミュニケーションを取り、私たちのビジョンである「Change the focus」(視点を変える)を自然と体現できるような、ワクワクする空間づくりを意識しています。
── これから組織を引っ張る若い世代の方々には、これから組織の中でどのような姿勢を期待されていますか。
堀 やはり「どんな環境でも、自分事としてとらえて行動する」ことを期待したいですね。私自身もまだまだ手探りで、偉そうなことは言えませんが、これだけ何が起きるか分からない、正解がない時代ですから、「生き抜く力」を育てることが重要です。受け身にならずに自分で考えて決断する力が欠かせません。
ホリゾンは、私一人の力で動いているわけではありません。誰がトップに立っても、お客様に価値を提供し続けられる強い組織でありたい。適材適所でふさわしい人間がバトンをつなぎ、100年、200年と続く会社にする。そのための土台作りを、今の私の世代でしっかりと成し遂げたいと思っています。