多くの中小企業経営者やビジネスオーナーを悩ませる、経理や労務といったバックオフィス業務の非効率性と深刻な属人化。人材確保が難しく、法改正への対応も後手に回りやすいこの領域において、新たな選択肢を提示しているのが株式会社カクイアンドカンパニーである。
同社が提供する伴走型バックオフィス運用支援サービス「Vaqos」(バコス)は、単なる作業代行を行う「リモートアシスタント」の枠を超え、クライアントの既存システムを活かしながら深い部分まで入り込む点を強みとしている。
実務経験が豊富なプロフェッショナルがそろい、一社一社の規模や状況に合わせたオーダーメードの支援を低コストで提供する。さらに、特定の個人に依存せずチーム制で実務を回す仕組みを構築することで、中小企業の属人化リスクを徹底して排除している。
前職からのスピンアウトという形で起業・創設された同社は、クライアントの成長に黒子として伴走し、バックオフィスを劇的に変える挑戦に取り組んでいる。
経営者を影から支える「スピンアウト」での起業
── 起業にいたった経緯や、前職でのご経験について教えてください。
柿迫 前職は、京都にある10人程度の教育業を営む中小企業で、そこで経理や総務といった、バックオフィス業務の管理全般を行う部署で働いていました。
創業を意識したのは、日々、当たり前のようにこなしている業務や作業を通じて、多くの会社が困りごとを抱えていたり、そもそも何から手をつければいいのかまったく分からない状態であったりすることに気づいたからです。そこに大きな課題とニーズがあると感じて、会社を立ち上げようと思いました。
── 昔から「いつかは自分が経営者になるんだ」という強い想いがあったのですか?
柿迫 学生時代からぼんやりと思っていた程度ですね。これを絶対に成し遂げてやる、絶対に社長になる、というほどの強い野心を持っていたわけではありません。
── その中で社長になるという決断に至った背景を教えてください。
柿迫 当社の成り立ちは、いわゆる「スピンアウト」で、前職の会社は12人ほどの規模だったのですが、そこから私を含めて4人が抜けて新しい組織を作ることになりました。
本当は、私の元上司だった人間を社長として担ごうと思っていたのですが、私がいろいろと起業に向けた構想を練っていたところ、その上司から、「(柿迫が)社長をやったらいいんじゃないか」と言われ、代表を務めることになりました。その上司は今でも弊社にいます。
── 12人の会社から4人が抜けると大変そうです。社長に反対されなかったのですか?
柿迫 ありがたいことに前の会社の社長も、メンバーたちも、全員がすんなりと、非常に心よく送り出してくれました。
前職の会社は関連会社がいくつかあって、私たちがいた会社はそのグループ全体の管理や事業のマネジメントを行っているような組織でした。私たちはコーポレート部門の管理を担っていたので、そこから独立する形ですね。
リモートアシスタントとは一線を画す「オーダーメード」のバックオフィス支援
── 2025年リリースされた御社のサービスVaqos(バコス)について、特徴や競合他社との違いを教えてください。
柿迫 世の中には、バックオフィス支援や事務代行を行う競合他社は非常にたくさん存在します。
私たちのサービスは、経理・労務業務に特化したバックオフィス支援サービスです。豊富な実務経験を持つメンバーが、クラウド型の会計システムや労務管理システムを活用し、業務を柔軟にサポートするというものです。
他社と明確に違う部分、強みとして自負しているところは、一般的な「リモートアシスタント」とはスタンスが大きく異なる点です。
ただ言われた作業を代行してやるだけではなく、「いかにそのクライアントの深いところまで入り込んでいけるか」という部分に重きを置いていて、ちょっとしたコミュニケーションの手間暇を惜しまない姿勢を大切にしています。
それを支えるのが、弊社に揃っている実務経験が非常に豊富なバックオフィスのプロフェッショナルたちです。そのメンバーたちが、クライアントの状況にあわせて柔軟に対応します。
具体的な手法として、たとえば会計システムであればマネーフォワードさん、労務管理システムであればオフィスステーションさんなど、世の中にすでに存在している便利なクラウドシステムをうまく活用します。
私たちが何か新しいシステムを独自に開発するのではなく、既存の優れたツールを組みあわせて、クライアントの業務の効率化を最大化するというスタンスです。
まさに「ハンズオンでのバックオフィス運用支援」と言えます。
実際に私たちが手を動かしてクライアントの業務を回しながら、その会社にとって本当に最適な業務フローを構築していきます。さらに、その都度発生する法改正への対応など、専門的な知識の提供も同時に行います。
実務の代行と知識のアップデートを同時並行で進めることで、企業の成長をちょっとずつ手助けするというイメージです。
── クライアント企業はどういった悩みを抱えているのでしょうか?
柿迫 一番多いのは、「クラウドシステムを導入したものの、まったく使いこなせていない感じがする」というお悩みですね。
あるいは、「自社のこのやり方は非効率な気がするが、他社は一体どういう風にやっているのだろうか」という、フローそのものへのご相談を受けることが非常に多いです。
そうしたお悩みに対して、私たちは無理なシステムの乗り換えを提案することはありません。一社一社の現在の環境や会社の規模感にあわせて、向いているもの・向いていないツールを見極めながら、オーダーメードのやり方で柔軟に対応しています。
これから新しく導入するという段階であれば、「あなたの会社の規模や業種であれば、このシステムの方が合っていますよ」という選定の支援からご提案させていただきます。
プロフェッショナルな少数精鋭チームで属人化防ぐ
── 組織や、働いているメンバーの構成について詳しく教えてください。
柿迫 現在、私を含めて6人のメンバーで運営しています。その内訳は、全員が経理なり労務なり、バックオフィスの実務を長年にわたってずっと経験してきた、その領域に非常に強いメンバーばかりです。
そして、営業活動や新規開拓といった外回りの役割は、現在ほぼすべて私1人です。私たちは自社で何か新しいアプリケーションを開発しているベンダーではなく、「すでにあるものをうまく使いましょう」というスタンスです。
開発コストがかかっていない分、クライアントに対しても非常に低コストでサービスをご提供できているというメリットがあります。
優秀な実務家が揃っている環境ですが、バックオフィス業務を他社に委託するうえで、担当者が辞めてしまったら回らなくなるという「属人化」のリスクを心配する経営者も多いと思います。
その点については、私たちが最も意識して仕組み化している部分です。弊社はクライアントに対して、特定の個人ではなく必ず「チーム」として対応する体制をとっていて、クライアントの現在の状況や抱えている課題、日々の進捗にいたるまで、すべての情報をチーム内で常に共有しています。
同業他社さんのサービスの中には、業務委託の個人とクライアントをただマッチングさせるだけというプラットフォーム形式のものもたくさんありますが、それだと、その業務委託の個人が辞めてしまったり、体調を崩したりしたときに、クライアントの業務が完全にストップしてしまうという大きな影響が出ます。
弊社の場合は、基本として1つの業務を数人が同時にできるように仕組み化していますので、担当者の離脱によってクライアントにご迷惑をかけるようなことはまったくありません。
会社を「つぶさない」ための決断を下す
── 創業されてからこれまでの中で、一番大変だったと感じることは何ですか?
柿迫 苦労したのは、「自分も含めてメンバー全員が、バックオフィス側の人間である」という点に尽きますね。
というのも、我々は実務のプロですが、新しいサービスを作って、それを外に出て自ら売り込んでいくという、営業やマーケティングの動きをしてこなかったわけです。
一般的にバックオフィス側の人間というのは、自分が前に出て目立っていくというよりは、一歩引いた影の立場で人を支えることに喜びを感じるスタンスの人が多いので、そのマインドのメンバーが集まってビジネスを展開していくという部分が、ある意味では一番の挑戦だったかもしれません。
なお弊社は、基本的にフルリモートワークを導入していて、さらにフレックスタイム制を取り入れています。
働くメンバーそれぞれの家庭の事情や都合にあわせて、自分のやるべき仕事さえしっかりと回っていれば、基本的にはいつどこで働いても自由というスタンスをとっています。
メンバーが優秀で本当に良い人たちばかりなので、私があれこれと指示を出さなくても、自分たちでうまく考えて勝手に良い方向へ動いてくれるのです。そこは代表として本当に助けられていますね。
── 自由なリモートワークだからこその難しさはありませんか?
柿迫 リモートワークであればあるほど、お互いの顔や表情がリアルタイムで見えない分、余計にコミュニケーションが難しくなると感じています。
私自身、コミュニケーションがめちゃくちゃ苦手なので、だからこそ、自分が今何を考えているのか、これから会社をどういう方向に持っていこうと思っているのかという点について、なるべく言葉にして社内で共有することを強く意識しています。
直接話す機会を意識的に作ったり、チャットツールをフル活用したりして、思考のオープン化を試みています。
**── 柿迫社長が意識されている、あるいは目標にしているような理想の経営者像はありますか?
柿迫 世の中の経営者の方々を見ていて「みんな本当にすごいな」とリスペクトの気持ちは常に持っていますが、自分が誰かのようになりたいというモデルはありません。私も家族や親族に経営者がいたわけでもないので、本当に独自のスタンスでやっています。
ただ、私自身が考える「リーダーとしての役割」の定義は明確にあります。
組織がまだ小さく、関わるステークホルダーも少ない状況であればあるほど、トップである自分自身がどうしたいかという決断の重みや影響力は大きくなります。そこをブレずにしっかりと決めていくことが自分の仕事です。
そして何よりも、会社を絶対につぶさないこと。これこそが、私が果たすべき最も本質的で最低限の任務だと考えています。
── ちなみに、「カクイアンドカンパニー」という社名の由来について教えていただけますか。
柿迫 実は、前職の社長が独立するときに名付けてくれたのですが、弊社の英語表記「caqui」はスペイン語・ポルトガル語で、果物の「柿(カキ)」を意味しています。
つまり、私の苗字である「柿迫(かきさこ)」の「柿」からとっていて、「柿迫とその仲間たち」みたいな意味合いです。
私自身、自分の名前を社名に出して目立ちたいというタイプではまったくなかったので、今でも少し照れくささがありますね。
クライアントの成長に伴走、いつか「アレ俺詐欺」を
── 今後のビジョンや、数年後の具体的な目標数値などがあれば教えてください。
柿迫 会社を存続させるうえで、もちろん新規開拓や売り上げを伸ばしていくことは重要ですが、自分の会社自体をただひたすらに巨大化させていくということをビジネスの主軸には置いていません。
どちらかといえば、私たちが支援しているクライアント企業の成長に伴走しながら、そのスピードにあわせて、弊社もちょっとずつ大きくなっていけたらいいな、という感覚を持っています。
ただしここから1年ほどの間に、クライアント数を10社程度、社内の人間を2人程度現状から伸ばしていきたいと考えています。
なぜその規模感なのかというと、それくらいのバランスが、チームとして最も密に連携がとれて、なおかつクライアント一社一社に対して絶対に手を抜かずに丁寧な対応を維持できる限界値の範囲内だからです。
それと同時に、社内のメンバーが「子供の学校行事があるから休みたい」というときに、周りがお互いに気持ちよくフォローし合ってしっかりと休める環境を両立できる、一番おさまりの良い規模感だとも考えています。
── もっと先の目標はいかがですか?
柿迫 理想を言えば、将来は「いつの間にかフラッと会社に現れて、よく分からない大きな仕事だけをどこからか持ってきて置いていく、謎の老人」みたいなポジションになりたいですかね(笑)。
あと、「アレ俺詐欺」という言葉がありますよね。「アレ、俺がやったんだよ」といったふうに、有名になったサービスを自分が作ったとか、有名人を自分が育てたと、自分の手柄だと吹聴する嘘のことですが、「アレ俺詐欺」みたいなことをしたいんですよ(笑)。
もちろん嘘はいけないので、詐欺ではなく本当に、「あの会社は自分たちが支えたんだ」と言えるようになりたいということです。
私たちが黒子として支えているクライアント企業が、たとえば素晴らしいサービスを世の中に実装したり、上場(IPO)を果たしたり、大きなビジネスの成果を出したときに、影で「実はあの会社さん、うちがバックオフィスをずっと支えているんですよ」と、身内で誇らしく言えるような関係性をたくさん作っていきたいですね。
クライアントの皆さんが大活躍して、その成功の喜びを分かち合いながら、私たち自身も「確かに人の役に立っているな」という確かな実感をみんなで持ち、この会社を細く長く、ずっと幸福に続けていくこと。それこそが、私の描く究極の未来予想図です。