京都生協

京都府内の世帯の半数近く、約57万人の組合員を抱える京都生活協同組合(京都生協)。買い物支援をはじめ、宅配・店舗・共済・福祉・葬祭と、地域のくらしのあらゆる場面を支えてきた組織が今、「ファンづくり」というテーマを中期計画の柱に掲げている。

利用を続けてくれる人、協同の価値に共感してくれる人、人と人とのつながりを大切にする人——。そんな仲間を増やすことが、次の世代へ「頼もしき隣人たらん」という創立の理念をつなぐ道だというのが、2025年に理事長になった髙倉通孝氏だ。

1995年の入協以来、京都生協一筋という髙倉理事長に、物価高という逆風のなか、1964年の創立から60年をこえた生協の、これまで、今、そしてこれからの針路について聞いた。

髙倉通孝(たかくら・みちたか)──京都生活協同組合 理事長
宅配事業の現場で約16年、店舗事業で5年、人事部門で5年と、現場から管理部門まで幅広く経験する。2017年には職員の行動指針「クレド」の制定を主導。専務理事を経て、2025年6月、理事長に就任。

約57万人を抱える「くらしのインフラ」

── 京都生協の規模感と、現在の事業について教えてください。

髙倉 約57万人の組合員が加入する組織です。世帯に換算すると、京都府内の4割から5割弱ぐらいの世帯が組合員になっている規模になります。商品の提供が事業の中心ですが、単なる小売業者を超えた責任を担っていると考えています。

京都生協には「頼もしき隣人たらん」という創立の理念があります。その理念のもとで、宅配、店舗、共済、福祉、葬祭といった、暮らしのあらゆる場面で地域を支える生活インフラとしての役割を担ってきました。これからも、その役割を果たす使命がある組織だと考えています。

── 店舗と宅配は、どの地域を対象に展開しているのでしょうか。

髙倉 店舗は、京都市内と南部エリアに18店舗あります。

京都生協
(画像提供=京都生協)

宅配は京都府下全域で行っています。京丹後市から南山城村まで、要望があれば配達に行く。冷蔵と冷凍の商品を配達できるインフラを持っていることは、京都生協の強みだと思っています。

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(写真提供=京都生協)

一方で、府単位で事業を行っていることには一定の制約もあります。京都生協は京都府内を活動の範囲として、京都府内の組合員の暮らし向上のために事業を行う組織です。

── 物価高が続くなか、組合員の購買行動にはどのような変化がありますか。

髙倉 物価高の影響は、暮らしにかなり影響を与えています。購買行動には、非常に明確な変化が出ていると思います。

価格高騰のなかで生活防衛意識が高まっているため、価格の安いものや特売品への集中は、以前にも増して強まっています。

ただ一方で、品質や安全性にこだわったコープ商品や産直商品も、変わらず支持されています。消費者は、無駄を省きながら、メリハリのある商品選択をしているのではないかと思います。

せいきょう牛乳や、にがり充てん豆腐のように、組合員の声から生まれた価値のある商品については、支持が続いています。そうした商品の品質を落とさずに、価格面でも対応していくことが、これから求められています。

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オリジナル商品(写真提供=京都生協)

コストダウンの努力も必要になりますが、そのバランスは非常に難しくなってきています。

「助け合い」という協同組合の原点

── 社会全体の厳しさが増すなか、地域活動についてはどのように考えていますか。

髙倉 暮らしのなかで厳しさが増している場面が出てくるなか、協同組合の原点である「助け合い」が問われている局面だと感じています。

不景気になると、ご家庭の状況も厳しくなり、フードドライブに寄付される商品が集まりにくくなる現実があります。

そのような状況だからこそ、助け合いの組織としてフードドライブのように、組合員同士が支え合う活動には力を入れていきたいと考えています。

参加を広げる取り組みを模索し、そうした活動を行っている団体とも連携を取りながら、対話や連携を具体的に進めています。

── 買い物に困難を抱える地域への対応はいかがでしょうか。

髙倉 お買い物困難地域は、社会問題になっています。

おかいものサポートカーや、おかいもの便のようなサービスを行っています。お店がなく、買い物をする場所がなくて困っているという組合員の声に対して、お店に連れていく、あるいは商品を持っていくという取り組みです。

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買い物困難地域でもサービスを提供(写真提供=京都生協)

正直に言えば、採算面で厳しい部分はあります。しかし、収益性だけでは測れない困りごとにも寄り添うことは、生協の役割だと思っています。

だからといって、採算性を考えなくてよいわけではありません。採算性を高める努力をしながら継続する。すぐに撤退するのではなく、事業として成り立つように努力していくことが必要です。

以前は山間部が主な対象でしたが、最近では京都市内でも買い物困難地域が出てきています。東山区では、人口が減少し、高齢化率が高まるなかで、地域からの要望を受けておかいもの便を走らせる取り組みも始まっています。

観光客は多く訪れていても、そこに住んでいる人が少なくなっている地域があります。買い物支援を必要とする地域は、山間部だけではなくなってきています。

失敗から学んだ「組合員の願い」という判断軸

── これまでのキャリアについて教えてください。

髙倉 1995年に京都生協に入りました。最初は宅配の現場で、16年ぐらい経験しました。その後、店舗を5年、人事を5年という形です。

基本的には、現場に近いところで経験を積んできました。2021年に専務理事になり、現在に至ります。伏見、中京区、北区の店舗で勤務し、店長も経験しました。

── 京都生協に入協したきっかけは何だったのでしょうか。

髙倉 1995年当時は、バブルが崩壊した後ぐらいの時期でした。就職活動のなかで生協についていろいろ話を聞き、協同組合の考え方に共感したことがきっかけです。

事業活動を組合員のために行うことや、「誠実、正直」という考え方が、協同組合の原点になっている。そのことに少し共感して、やってみようと思いました。

私は大阪出身で、就職を機に京都に来ました。それからずっと京都で働いています。

── 過去の経験から、現在の経営に生きている教訓はありますか。

髙倉 京都生協は1964年にでき、長い歴史があります。過去の取り組みのなかには、うまくいった経験もあれば、失敗もあります。

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(写真提供=京都生協)
京都生協
(写真提供=京都生協)

新しい事業を始めてうまくいかなかったケースには、共通点があります。それは、組合員の願いがないところで事業をしてしまったことです。

必要とされていない分野で事業を展開しても、なりたちません。

そのため、組合員の願いにきちんと沿った計画になっているのか。本当に必要とされているのか。そこが、何かを決めるときの一番の判断軸になっています。

一方で、事業として収益性や持続性を高める努力も必要です。一般の株式会社などと比べると、まだまだ厳しさが足りない部分もあると感じています。他社の取り組みを学びながら、事業を進めていく必要があります。

デジタル化は進めるが、目的は利便性の向上

── デジタル化や店舗サービスの変化について教えてください。

髙倉 一般の小売スーパーと同じように、サービスレベルを合わせることは、消費者から求められています。

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アプリも提供(画像提供=京都生協)

カード決済やアプリの開発、セルフレジの導入を進めています。社会の流れ、一般小売の流れに合わせて取り組んでいる状況です。

ただ、京都生協は京都府内を活動範囲としているため、店舗をどんどん増やしていくわけにはいきません。限られた地域のなかで事業を継続するには、利益を出していく必要もあります。

京都府内の世帯の約4割から5割弱が組合員になっている一方、食品における生協のシェアは、まだまだ低い。組合員から頼りにされきれていない部分があり、そこには伸びしろがあると考えています。

── 職員の行動をそろえるために、どのような取り組みをしていますか。

髙倉 京都生協では、職員としてこういう行動を取りましょうという「クレド」を、2017年に決めました。

決めたことをきちんと浸透させるには、継続して問いかけていく必要があります。クレドの内容と、自分たちが今進めようとしていることがどうなのかを、常に問いかけるようにしています。

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(写真提供=京都生協)

たとえば、あいさつをしましょうということも、クレドの一つです。クレドを貼っておくだけでは、あまり意味がありません。その項目に対して、どのような行動ができたかを共有し合うミーティングのような取り組みも行っています。

ある職員がクレドに沿って行動したことを別の職員が聞き、それなら自分もやってみようと思う。そうした形で、クレドを浸透させようとしています。

まだ十分にできていないところもありますが、継続して取り組んでいます。

「ファンづくり」は利用継続だけではない

── 京都生協が掲げる「ファンづくり」とは、どのような考え方でしょうか。

髙倉 2015年ごろから、前理事長を中心に、京都生協の価値を正しく伝えるためのリブランディングを進めてきました。現在は、ブランド戦略として取り組んでいます。

その取り組みを引き継ぎながら、これからは「京都生協が好きだ。だから利用したい」という人を、どんどん増やしていきたいと考えています。

中期計画では、「生協の理念に共感するファンを増やす」と掲げています。

私たちは、ファンを次のように考えています。

第一に、利用を続けてくれる人。
第二に、協同の価値に共感してくれる人。
第三に、人と人とのつながりを大切にする人。

この三つを満たす人たち、つまり、一緒に地域をよくしていこうという仲間を増やしていくことが、現在のファンづくりです。

生協(コープ)は名前を知られていますが、何をしているのかを知らない人もいます。単純に商品を買うだけなら、近くのスーパーで買ってもよい。そう考える人がいるのは当然です。

だからこそ、京都生協が何者で、何のために活動しているのかを、分かりやすく知らせていくことが大切です。

── ファンを増やすために、具体的にどのような接点をつくっていますか。

髙倉 協同の価値に共感する、人と人とのつながりを大切にしたい。そういう体験をしてもらえる仕掛けが必要です。

現在は、子ども向けのイベントをさまざまな場所で行い、接点をつくりながら、生協のことを知っていただく取り組みを進めています。

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イベントの様子(写真提供=京都生協)

子ども向けイベントをきっかけに、「生協はこんな組織なんだ」と知っていただき、ファンになってもらう。そうした取り組みを地道に続けています。

ファンづくりは、すぐに成果が出るものではありません。非常に難しい取り組みですが、これからに向けた鍵になると考えています。

── 商品を買うだけではない、生協の価値を伝えるために、どのような活動をしていますか。

髙倉 京都生協の最初の成り立ちは、より安い商品を手に入れたいということだけではありません。文化的にも生活を向上させようという考え方から、生協がつくられました。

そのことをきちんと知らせるようなイベントや、学習会の機会が必要だと思っています。

直近では、組合員親子が、せいきょう牛乳の産地である鳥取県で生産者と交流するキャンプイベントを行いました。人と人とのつながりをつくる場所を提供することで、生協を知っていただくという取り組みです。

すぐにファンになっていただくことは難しいですが、まずは生協との接点をつくる。そのうえで、生協が助け合いの組織だと気づいてもらえればと思っています。

若い世代との接点をどうつくるか

── 若い世代の加入については、どのように考えていますか。

髙倉 職員の平均年齢は50歳を超えています。65歳が定年となるため、これから定年退職者が多く出てくる年齢構成になっています。

若い世代に入っていただき、世代交代を進めていかなければならない。これは京都生協の課題の一つです。

組合員の平均年齢も高くなっています。若年層の組合員のファンづくりは、非常に大きな課題です。

いきなり若い方に「協同組合とは何か」「理念とは何か」と伝えても、拒否反応を示される可能性があります。

まずは暮らしの困りごとに応えることで、関係性を築いていきたいと考えています。

子育て世代向けには、離乳食の品ぞろえを充実させています。また、子育て中の方には配達手数料を割引しています。単身者向けのミールキットもあります。そうした商品やサービスを提供するなかで、生協との接点をつくる。

そのうえで、生協は助け合いの組織だと気づいていただければうれしいですね。

ロゴ、制服、店舗サインを変えたリブランディング

── リブランディングでは、どのような変更を行ったのでしょうか。

髙倉 2021年のリブランディングでは、京都生協をより身近に感じていただくこと、変わった理念の価値をきちんと知らせることを意識しました。

ロゴや店舗のサインを変え、制服も変えました。商品パッケージも、ロゴに合わせて統一感を持たせています。

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(写真提供=京都生協)

見た目を変えるだけでなく、京都生協が何者なのかを見つめ直し、職員組織に浸透させることが重要です。

スーパーと同じように商品を仕入れて届ける仕事であっても、京都生協だからこそできることがあります。その違いを自分たちで気づき、考え直しながら進めていくことが大切です。

10年後に「加入してよかった」と思ってもらえる組織へ

── 今後、京都生協をどのような組織にしていきたいですか。

髙倉 今取り組んでいることを、きちんと形にすることが自分の使命だと思っています。

10年後に、若い世代や次の世代の方が、京都生協に加入してよかったと思える組織になっていることが、まずは10年後のゴールです。

20年後の暮らしを想像するのは難しいですが、10年後に、その先の10年の展望を持てる状態にしておきたい。事業や組織基盤を、次の10年につなげられるように転換していくことが、自分の役割だと考えています。

職員組織も、年齢が高いなかで、職員が誇りを持って働き続けられる組織にしていきたい。そのために、評価や処遇の仕方も、事業の状況に応じて変える必要があります。

クレドをつくるときの職員同士の話し合いのなかで、「自分の子どもが京都生協で働きたいと言ってくれるような組織になりたい」という話がありました。そのような組織になれるよう、取り組んでいきたいと思っています。

「頼もしき隣人たらん」を次の世代へ

── 最後に、今後のファンづくりに向けた考えを聞かせてください。

髙倉 協同組合ならではの価値が伝わればよいと思っています。

ファンづくりは非常に難しい取り組みです。さまざまな方の知恵を借りながら進めていきたいと考えています。

いきなり理念を伝えるのではなく、まず暮らしの困りごとに応える。子育て世代には離乳食や配達手数料の割引、若い世代にはミールキットなど、具体的な商品やサービスを通じて接点をつくる。

そのうえで、生協は助け合いの組織だと気づいていただく。そうした関係性を少しずつ築いていきたいと思っています。京都生協にとって、ファンとは、利用を続けてくれる人であり、協同の価値に共感してくれる人であり、人と人とのつながりを大切にする人です。

そのような仲間を増やしながら、「頼もしき隣人たらん」という理念を、次の世代につないでいきたいと考えています。

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(写真提供=京都生協)