「事業承継」と「事業継承」は似ているため混同されがちですが、どのような違いがあるのでしょうか。事業承継の意味や重要性、スムーズに行うためのポイントを紹介します。
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「事業承継」と「事業継承」の違い
「事業承継」と「事業継承」はどちらも現経営者から後継者へと事業を引き継ぐことを意味しますが、その対象やニュアンスに違いがあります。 事業承継の「承継」は、先代からの地位や権利、精神的な理念、経営方針など、形のないものを受け継ぐことを指します。法律用語としても使われるため、企業経営の文脈では「事業承継」という表現が一般的です。 具体的には「創業者の理念やビジョンを受け継ぐ」、「経営権を引き継ぐ」、「ノウハウや取引先との信頼関係を受け継ぐ」というニュアンスで「承継」というワードが使われています。
一方、「継承」は財産や具体的な資産、物理的な事業資産を受け継ぐ場合に使われることが多い言葉です。企業経営においては、株式や不動産、設備、知的財産権などの具体的な資産の「継承」を指します。 「会社の株式を子どもや孫に継承する」、「事業用不動産や設備を後継者に引き継ぐ」、「ブランドや特許権を継承する」というように使われています。
前述のとおり、一般的に事業を引き継ぐことは「事業承継」と呼ばれ、「事業継承」という言葉はあまり使われていません。
事業承継で引き継ぐ3つの要素
現経営者から次期経営者へと経営を引き継ぐ事業承継では、以下の3つの要素をバランス良く受け渡すことが求められます。
1. 経営（人）
1つ目は、経営権を次期経営者に引き継ぐことです。ここで言う経営権は株式ではなく、地位や理念といった意味です。経営を引き継ぐ際は、ふさわしい後継者を決定して育成し、スムーズに経営を引き継ぐことが求められます。
後継者には、経営者に必要な知識やスキルを身につけさせるだけでなく、会社のビジョンや事業の方向性などを共有し、経営陣や従業員との関係が円滑になるようにサポートする必要があります。
2. 資産（株式・財産）
2つ目は、株式や財産といった企業の資産を引き継ぐことです。特に、株式や財産の譲渡には専門知識が必要であり、慎重に進めなければいけません。
株式の譲渡については、後継者が親族かそれ以外かで進め方が変わることもあり、状況によっては相続税対策なども検討するべきです。不動産や設備などの事業用資産、借入金や負債もしっかりと計画を立てて、後継者の負担にならないように引き継ぎます。
3. 知的資産（理念・ノウハウ）
3つ目は、企業や経営者が培ってきたノウハウや取引先との関係性、ブランドの価値など、無形資産の引き継ぎです。 これまで企業経営や事業推進において培ったノウハウを文書化するなどして引き継ぐことができれば、スムーズに事業承継が進みます。取引先などとの信頼関係が損なわれないように、慎重で丁寧なバトンタッチを心がけましょう。
事業承継の3つの方法
事業承継には「親族内承継」「従業員等への承継」「第三者への承継（M&A）」の3つの方法があります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを理解し、自社に最適な選択をすることが円滑な承継につながります。
1. 親族内承継
経営者の親族（子どもや孫、親戚）に事業を引き継ぐ方法です。後継者を計画的に育成でき、信頼関係を保ちやすい点がメリットです。しかし、親族内承継は後継者の適性や経営能力が課題となることもあるため、承継前にしっかりとした育成を行わなければなりません。
2. 従業員等への承継
社内の有能な従業員や役員に事業を引き継ぐ方法です。企業の現状を理解しているため、スムーズな承継が可能です。しかし、従業員が経営者としての資質を持っているとは限らないため、経営スキルを習得させる必要があります。また、後継者の社内での人望が薄いと組織が崩れ、経営が悪化するリスクがあります。
3. 第三者への承継（M&A）
外部の企業や個人に事業を売却・譲渡する方法です。周囲にふさわしい後継者がいない場合でも企業を存続させることができるため、近年は選択する経営者が増えています。実施にあたっては、適切な買い手を見つけることが重要です。また「買収」に抵抗感を覚える人も少なくないため、特に慎重に進める必要があります。
事業承継の流れ
事業承継を滞りなく進めるためには、計画的なステップを踏むことが重要です。事業承継を検討している経営者は、事業の存続と発展を支えるために、現状分析から承継後のフォローアップまでの一連のプロセスを理解しておきましょう。
1. 現状分析と課題整理
まずは事業の現状を知り、承継に向けた課題を明確にします。具体的には、以下の点を明らかにします。
- 経営状況の確認：財務状況、売上推移、利益構造の分析
- 経営資源の整理：人材、技術、取引先、知的財産の把握
- 課題の洗い出し：後継者不在、税務・財務リスク、組織体制の問題点 この段階であれば経営者自身が進めることもできますが、専門家（税理士、弁護士、コンサルタントなど）の意見を聞くことを検討しても良いでしょう。
2. 後継者の選定と育成
次に事業を引き継ぐ後継者を選び、必要な教育・訓練を行います。後継者の選定には「事業承継の3つの方法」で説明した以下の選択肢があります。
- 親族内承継：経営者の子どもや孫、親族に後を継がせる
- 従業員等への承継：従業員や役員の中から後継者を選ぶ
- 第三者への承継（M&A）：外部の企業や投資家に事業を譲渡する
後継者を選定した後は育成プランを練り、指導します。具体的には、現場の業務や組織マネジメントなどの経営実務、取引先や従業員との関係構築、経営理念やビジョンの共有などを行います。
3. 承継計画の策定
いつ頃からどのような手順で進めていくかなど、承継の具体的なスケジュールを決めます。計画にあたっては、以下のことをつめていきます。
- 承継時期の決定：いつから始めるか、段階的に引き継ぐか一括かを検討
- 事業計画の策定：後継者がスムーズに経営できるよう、ビジョンと事業戦略を明確化
- 承継方法の選定：株式の移転方法、経営権の移譲手続きを整理
この段階になったら、金融機関や専門家のアドバイスを受けながら、具体的に計画を進めていくことが重要です。
4. 財務・税務対策の実施
事業承継では、税務や財務の影響を最小限に抑えるための対策も考えておくべきです。特に、以下のポイントは把握しておきましょう。
- 相続税・贈与税対策：自社株の評価額の算定、納税資金の確保
- 資産の整理：経営資源の最適化、不動産や設備の管理
- 金融支援の活用：事業承継税制の活用、融資・補助金の活用
財務・税務対策を怠ると事業継続が困難になるケースもあるため、早めに準備を始めましょう。
5. 社内外への周知と承継実行
事業承継の計画が固まったら、適切なタイミングで社内外に情報を共有し、承継を実行します。
- 従業員への説明：事業承継とその後のビジョンを伝え、理解を得る
- 取引先・金融機関への報告：信頼関係を維持し、スムーズな引き継ぎを進める
- 正式な手続きの実行：役員変更の登記、契約の見直し、資産の移転
これらは特に重要なプロセスです。従業員や取引先の理解を得られないと、その後の事業に悪影響が出るおそれがあります。
6. 事業承継後のフォローアップ
事業承継は、承継が完了した後のフォローアップも重要です。経営は止めることができないため、円滑に進められるように支援しましょう。
- 後継者の支援：前経営者が一定期間サポートし、経営の安定化を図る
- 組織の適応と改善：新経営体制の課題を洗い出し、必要な改善を行う
- 成長戦略の推進：新しい経営ビジョンを実現し、企業の成長を後押しする
特に、これまで支えてくれた従業員のモチベーションの維持や組織文化の継承を意識しながら、新体制への移行を進められるようにしましょう。
事業承継を成功させるポイント
事業承継を円滑に進めるためには、以下のポイントを意識することが重要です。
早めに準備を始める
事業承継は慎重に進めるべきもので、アクシデントによるものでなければ基本的に長期間にわたって行われます。5〜10年前から計画的に準備を進めることでリスクを抑えられ、スムーズな移行が可能になります。
適切な税務・財務対策を行う
事業承継に伴う税負担や財務リスクを軽減するためにも、早めの対策が必要です。専門家に相談しながら事業承継税制の活用や資産の整理を進め、税務・財務対策を講じておきましょう。
従業員や取引先への周知を徹底する
事業承継が円滑に進むかどうかは、従業員や取引先の理解と協力にかかっています。後継者のビジョンをきちんと共有し、これまでどおりの信頼関係を構築することが重要です。
まとめ
事業承継と事業継承は似た言葉ですが、一般的に使われるのは事業承継です。
事業承継は単なる経営者の交代ではなく、企業の未来を左右する重要なプロセスです。計画的に進めることで後継者はスムーズに経営を引き継ぐことができ、企業は発展を続けることができるでしょう。自社に適した方法を選択し、適切な準備と対策を講じながら、事業承継を成功に導きましょう。