AIによる業務効率化が進む背景と各業務における活用事例
(画像=Felippe Lopes/stock.adobe.com)

企業が他社を統合するM&Aは、成長戦略や事業拡大の重要な手段の1つです。M&Aを成功させるためには、各ステップを適切に進める必要があります。本記事では、M&Aの全体の流れや各フェーズの詳細、注意点について解説します。

基本的にM&Aのプロセスは、売り手・買い手のどちらの立場でも大きくは変わりません。ただし、売り手は企業価値の適正評価や買い手の選定に重点を置き、買い手は対象企業のリスク評価やシナジー効果の最大化を重視する点が異なるので注意しましょう。

M&Aの全体の流れ

M&Aは検討段階から契約成立まで、大きく以下の3つのフェーズに分けられます。

検討・準備フェーズ

M&Aを実施する前に、目的の明確化や候補企業の選定、企業価値の評価などを行い、適切な計画を立てます。この段階でしっかりと準備をすることで、後の交渉や契約がスムーズに進みます。

打診・交渉フェーズ

候補企業との交渉を進めるフェーズです。秘密保持契約の締結、企業情報の開示、トップ面談、基本合意の締結を経て、M&Aの具体的な条件を固めていきます。このフェーズでは、双方の合意形成が重要なポイントとなります。

最終契約フェーズ

デューデリジェンスを実施し、最終契約を締結します。買収・売却条件の確定、正式な契約締結、クロージング手続きを経てM&Aを完了させます。手続きが済んだ後はPMI(統合作業)に入ります。 各フェーズごとに実施すべき手順と注意点を詳しく見ていきましょう。

1. 検討・準備フェーズ

なぜM&Aを実施するのか、その目的をはっきりさせましょう。それが決まったら候補企業の選定に入りますが、ここで仲介会社や専門家の力を借りることを検討します。売却側の場合は、この段階で企業価値の評価を行います。

1-1. M&Aの目的を明確化

まずはM&Aを実施する目的を明確にすることが重要です。買収・売却の観点で目的は様々ありますすが、事業拡大や競争力の強化、事業承継、技術取得などが挙げられます。

1-2. 仲介業者・専門家の選定

M&Aでは専門的な知識が必要になるため、M&Aアドバイザーや弁護士、会計士といった専門家と連携し、支援を受けられると心強いでしょう。ただし、専門家にはそれぞれ得意領域があるので、誰の力を借りるかはしっかりと検討しなければなりません。

1-3. 企業価値の評価

売却を考えている場合はこの段階で企業価値を評価し、適切な買収金額や取引スキームを検討します。企業評価の手法には「インカム・アプローチ」「マーケット・アプローチ」「ネットアセット・アプローチ」などがあります。

2. 打診・交渉フェーズ

準備が整ったら買収・売却の候補企業とのマッチングを進め、相手が決まれば交渉を開始します。両企業のトップ同士が顔を合わせて詳細を詰めていき、合意に至ったら基本合意書を締結します。

2-1. 買収・売却候補企業の選定と初期交渉

M&A仲介業者を通じて候補企業をリストアップし、買収・売却を打診します。秘密保持契約(NDA)を締結した後、具体的な情報を開示して交渉を進めます。なお、交渉においても買い手、売り手ともに様々な書類が必要になりますので、交渉時は必要な書類をしっかりと準備して臨みましょう。

2-2. トップ面談

統合にあたって経営層同士が直接会談し、企業文化や経営方針をすり合わせていきます。お互いの相性やビジョンが一致するかが重要なポイントとなります。一度だけでなく複数回にわたって面談を行うケースもあります。

2-3. 基本合意の締結

基本合意は一般的に書面で行われ、条件がまとまった段階で基本合意書を締結します。基本合意書には、取引金額の概算やM&Aのスキームやスケジュール、独占交渉権などが含まれます。

3. 最終契約フェーズ

基本合意書を締結した後は売り手企業の詳細な調査を行い、最終契約を結びます。大きな契約となるため特に慎重に進める必要があり、締結後も統合した会社が滞りなく経営を行えるように両社で連携を深めていきます。

3-1. デューデリジェンス(DD)の実施

M&Aの基本合意が形成された後、買い手企業は売り手企業の財務・法務・事業内容について詳細な調査「デューデリジェンス(DD)」を行います。これによりリスクを洗い出し、契約内容の調整を行います。

3-2. 最終契約の締結

デューデリジェンスの結果を反映し、最終的な買収条件を確定させた後、正式な契約を締結します。契約締結後は基本的に内容を変更することができないため、慎重に進めましょう。

3-3. クロージング(取引完了)

両社が契約書類にサインした後は、必要な手続きを行ってM&Aを完了させます。このフェーズには支払いの実行、株式の譲渡、許認可の取得などが含まれます。

3-4. PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の実施

M&A後の統合作業であるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)を進め、従業員や事業のスムーズな融合を図ります。 PMIは買収企業と売却企業の組織・システム・業務プロセス・企業文化などを統合し、M&Aのシナジー(相乗効果)を最大化するために行われるプロセスです。

契約後の注意点

M&A契約締結後に問題が発生する可能性があります。特に以下の点に注意が必要です。

従業員のモチベーション管理

M&Aが従業員に与える影響は非常に大きく、統合による組織変更や業務の変化が不安要素となることがあります。これらを解消するために、M&A後は従業員との適切なコミュニケーションを取ることが不可欠です。M&Aの目的や今後のビジョンを伝えるだけでなく、意見交換の場も設けると良いでしょう。

取引先との関係維持

M&Aによる企業統合は取引先にも影響が及ぶ可能性があり、これまでに築いた信頼関係を維持する必要があります。サービスの質を低下させないことはもちろん、M&Aの目的や実施による影響も丁寧に説明しましょう。

業務プロセスの統合

異なる文化や業務フローを持つ企業同士がM&Aで統合される場合は、業務プロセスを早期に最適な形で統合する必要があります。互いの業務フローを把握した上で適切な形にそろえるだけでなく、システムやツールなどの統一も検討して効率的な運営を目指しましょう。

まとめ

M&Aは企業が他社を統合するという大きな取引であり、契約締結までに長い時間がかかります。円滑な統合を図るためには、適切な手順を把握した上で慎重に進めなければいけません。

検討段階から入念に準備し、専門家のサポートを受け、丁寧に交渉を重ねていくことが成功への近道です。契約締結後もきちんとPMIに取り組み、両社のシナジーを最大化させ、さらなる成長を目指しましょう。