AIによる業務効率化が進む背景と各業務における活用事例
(画像=Felippe Lopes/stock.adobe.com)

合併・買収により企業を経営統合するM&A。後継者不足の問題から選択する会社が増えたことで、現在は多くの仲介会社が存在しています。仲介会社を利用する際は手数料が発生しますが、いくらぐらいかかるのでしょうか。

M&Aを実行する際は仲介会社やアドバイザーに支払う費用を知り、適正なコストで進めることが重要です。本記事では、M&Aの手数料の種類や計算方法、高額になる理由、手数料を抑える方法について解説します。

M&Aの手数料とは?

合併・買収によって企業を経営統合するM&A(Mergers and Acquisitions)を行う際には、M&Aの仲介会社やアドバイザーに手数料を支払います。手数料には、企業価値の算定や買収・売却プロセスのサポート、契約交渉の補助などのサービスが含まれています。手数料は成功報酬型が一般的ですが、着手金や中間報酬が発生するケースもあります。

M&Aの手数料の種類

M&Aの手数料は、一般的に以下のように分類されます。

1. 着手金

M&Aのプロセスを開始する際に支払う手数料です。M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払い、企業価値の評価や市場調査、マッチングの準備などの初期段階の業務費用に充てられます。相場は50万円から500万円程度と幅広く、M&Aの規模や仲介会社の方針によって異なります。

2. 中間報酬

基本合意書の締結時やデューデリジェンス(DD/売り手企業の詳細な調査・分析)の開始時など、M&Aのプロセスの中間段階で支払う手数料です。成功報酬の一部として計算されるケースも多く、目安は成功報酬の10から20%程度です。

3. 成功報酬

M&Aが正式に成立した際に支払う手数料です。最も一般的な報酬形態であり、取引金額に応じた「レーマン方式」に基づいて算出されます。レーマン方式の詳細は後述します。M&Aが成立した際に支払う「成功報酬」なので、成約に至らなかった場合は基本的に請求されることはありません。

4. デューデリジェンス費用

「2. 中間報酬」でふれたデューデリジェンス(DD)は、M&Aの買い手が売り手企業の財務状況や法的リスクを精査するプロセスで、デューデリジェンス費用はその際に発生する費用です。財務DDや法務DD、税務DDなど、分野ごとに専門家が関与します。費用は数十万円で済むこともありますが相場は数百万円程度で、大企業になると数千万円かかることもあります。

5. リテイナーフィー(顧問料)

M&Aアドバイザーと契約する際に、一定期間(1ヵ月など)ごとに発生する固定報酬です。M&Aのスムーズな進行を支援してもらうため、定額の顧問料を支払う契約形態で依頼するケースがあります。費用感は月額50万から200万円程度ですが、依頼内容を調整することで抑えることもできます。

6. その他の費用

その他にも、M&Aでは弁護士に株式譲渡契約書の作成を依頼したり、コンサルタントにM&A後の統合を支援してもらったりすることで費用がかかります。

M&A手数料の計算方法

成功報酬は、一般的にレーマン方式と呼ばれる手数料体系で計算されます。「レーマン方式」という名称の由来は「ドイツ人経営学者のレーマン博士の学説がもとになっている」という説や「アメリカ投資銀行グループのリーマン・ブラザーズが採り入れていた報酬体系だったから」という説があり、1970年代頃から広まったとされています。

レーマン方式は、取引価格の範囲に応じて手数料率が変わる方式です。M&A仲介会社によって異なりますが、例えば以下のような基準が適用されます。

取引金額 手数料率
5億円以下 5%
5億円超~10億円 4%
10億円超~50億円 3%
50億円超~100億円 2%
100億円超 1%
例えば、取引金額が15億円の場合、 (5億円以下の部分)5億円 × 5% = 2,500万円 (5億円超~10億円の部分)5億円 × 4% = 2,000万円 (10億円超~50億円の部分)5億円 × 3% = 1,500万円 合計:6,000万円 となります。

M&Aの手数料が高額になる理由

M&Aの手数料が高額になる理由は、専門性の高い取引で素人が実行するのは難しく、様々なフェーズでコストがかかるからです。詳しく見てみましょう。

専門知識と経験が必要

M&Aでは、財務や法務、税務などの幅広い専門知識が求められます。特に中小企業の場合はオーナー経営者がM&Aに関する知識を持っていないケースが多く、その際は専門家のサポートが不可欠です。一般的に、専門的な知識を有する士業やアドバイザーの費用は高額です。

高度な分析が求められる

適正な売却価格や買収価格を算出するために、詳細な企業価値評価が行われます。財務諸表に加え、市場動向や将来の成長性などの分析も必要で、それらを経験豊富なアドバイザーなどに依頼することになります。

マッチングにリソースを投じる

最適な買い手・売り手を見つけるためには、M&A仲介会社のネットワークやデータベースを活用する必要があります。特に中小企業のM&Aでは、相手を探したりコンタクトを取ったりするのにリソースと時間がかかるため、その分、手数料が高くなります。

交渉と契約プロセスの複雑さ

M&A契約の交渉では、買い手と売り手の間で価格や条件に関する綿密な調整が行われます。また、法務や税務のリスクを最小限に抑えるために専門家の関与が不可欠であり、そのコストも手数料に反映されます。

M&Aの手数料を抑える4つの方法

M&Aを進める際の手数料は高額になりがちですが、やり方によっては抑えることもできます。以下の4つの方法を検討すると良いでしょう。

1. 複数のM&A仲介会社に相談する

手数料は仲介会社によって異なるため、複数の会社から見積もりを取得して比較してみましょう。例えば事業内容がマッチする場合は、小規模のM&Aを得意とする業者や業界特化型の仲介会社などを活用することで、手数料を抑えられることがあります。

2. 完全成功報酬型の仲介会社を選ぶ

着手金や中間報酬が不要な完全成功報酬型の仲介会社を選ぶことで、コストを抑えられるケースがあります。ただし、仲介会社によっては成功報酬が高めに設定されていることもあるため、契約内容は事前にしっかり確認しましょう。

3. 費用の内訳を明確にする

契約前に手数料の内訳を確認し、不明点があれば事前に仲介会社に説明を求めましょう。不当な手数料を請求されるケースは滅多にないものの、項目によっては価格交渉ができるものもあるかもしれません。

4. 自社でできる業務を整理する

企業価値評価やデューデリジェンスの準備、財務資料の整理などを自社で進めれば、仲介会社の負担を減らせる可能性があります。その作業内容やボリュームによっては、手数料の減額交渉ができるかもしれません。

まとめ

M&Aは多くの人が関わる大きな取引であるため、その手数料は多額になる傾向があります。企業の売買プロセスは複雑で長期にわたるため、場合によっては数千万円かかることもありますが、仕組みや計算方法を理解することで抑えられる可能性もあります。

M&Aを実行する際は最適な仲介会社を選択し、適切な手数料で進められるように、事前にきちんとリサーチした上で臨みましょう。