
■社員が辞める主な理由【最新データ】
公的機関や民間調査で明らかになっている、社員が退職を決意する主な要因をご紹介します。データを通じて、一般的な離職理由の傾向を把握し、自社の状況と比較するための基礎情報を提供します。年代や性別による違いにも触れます。
なお、これから述べることは、あくまでデータから読み取れる傾向です。参考程度に捉えるようにしてください。
【4つの視点】で見る、社員が辞める理由 |
1.「5人に1人の割合」最も多い辞める理由は? |
2.【産業別】に見る、辞める理由の傾向 |
3.【年代別】に見る、辞める理由の傾向 |
4.【性別】に見る、辞める理由の傾向 |
●「5人に1人の割合」最も多い辞める理由は?
※四捨五入によって総計が100%にならないことがあります
出典:厚生労働省「令和5年 雇用動向調査」をもとに編集部作成
厚生労働省が発表する「令和5年 雇用動向調査」によると、会社を辞める理由として上位に挙げられるいくつかの要因があります。
上図を見ると、最も多いのは「その他の個人的理由(21.3%)」でおよそ5人に1人の割合です。次で、「定年、契約期間の満了(13.2%)」「職場の人間関係(11.1%)」「その他の理由(出向等を含む)(10.3%)」と続いています。「その他」を除くと、人間関係、労働条件にギャップを感じ、辞めている傾向があります。
●【産業別】に見る、辞める理由の傾向
仕事の内容に興味を持てず | 能力・個性・資格を生かせず | 職場の人間関係 | 会社の将来が不安 | 収入が少ない | 労働条件が悪い | 結婚 | 出産・育児 | 介護・看護 | その他の個人的理由 | 定年、契約期間の満了 | 会社都合 | その他の理由(出向等を含む) | |
鉱業、採石業、砂利採取業 | 3.7 | 11.6 | 1.5 | 5.3 | 12.6 | 13.5 | - | - | - | 12.2 | 17.3 | 9.9 | 11.8 |
建設業 | 3.6 | 3.3 | 8.2 | 6.8 | 14.9 | 10.5 | 0.7 | 0.6 | - | 21.4 | 12.9 | 0.8 | 12.5 |
製造業 | 4.9 | 4.2 | 8.3 | 7.3 | 12.0 | 10.2 | 1.2 | 0.9 | 0.9 | 16.5 | 13.0 | 5.5 | 13.6 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 4.6 | 3.7 | 4.8 | 3.5 | 2.9 | 7.8 | 1.6 | 0.7 | 1.9 | 9.1 | 28.4 | 1.4 | 29.1 |
情報通信業 | 5.6 | 9.9 | 5.2 | 7.9 | 13.6 | 7.2 | 0.8 | 0.8 | 0.5 | 12.5 | 15.7 | 2.8 | 16.4 |
運輸業、郵便業 | 4.6 | 4.6 | 12.0 | 5.4 | 11.1 | 9.6 | 0.1 | 0.5 | 0.2 | 18.9 | 10.2 | 5.4 | 17.4 |
卸売業、小売業 | 10.7 | 5.4 | 12.1 | 6.4 | 5.4 | 6.9 | 0.6 | 0.9 | 0.8 | 24.4 | 8.5 | 4.4 | 10.1 |
金融業、保険業 | 3.4 | 3.1 | 4.9 | 5.6 | 11.4 | 8.5 | 0.2 | 3.8 | 0.1 | 16.9 | 17.7 | 3.2 | 21.0 |
不動産業、物品賃貸業 | 5.9 | 5.1 | 8.3 | 5.7 | 7.8 | 9.0 | 0.5 | 0.5 | 1.0 | 21.6 | 14.7 | 6.0 | 13.2 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 7.9 | 7.4 | 5.3 | 7.4 | 5.9 | 7.3 | 0.1 | 0.4 | 1.3 | 14.2 | 23.7 | 5.9 | 12.6 |
宿泊業、飲食サービス業 | 9.6 | 8.3 | 11.5 | 3.0 | 5.9 | 11.9 | 0.4 | 1.0 | 0.2 | 25.4 | 5.9 | 9.6 | 5.2 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 3.9 | 1.2 | 10.0 | 2.1 | 7.6 | 10.2 | 0.6 | 0.6 | 0.3 | 24.7 | 18.0 | 9.7 | 9.9 |
教育、学習支援業 | 5.2 | 2.5 | 6.3 | 2.0 | 3.8 | 7.0 | 1.5 | 0.8 | 0.7 | 20.7 | 29.7 | 4.5 | 11.1 |
医療、福祉 | 4.1 | 6.9 | 17.3 | 4.5 | 4.4 | 10.7 | 2.2 | 1.8 | 2.5 | 21.3 | 11.1 | 3.2 | 9.2 |
複合サービス事業 | 2.7 | 1.6 | 9.2 | 6.1 | 4.7 | 12.0 | 0.8 | 1.9 | 1.0 | 19.7 | 19.5 | 7.5 | 10.2 |
サービス業(他に分類されないもの) | 4.2 | 3.9 | 10.6 | 4.8 | 11.0 | 11.0 | 0.6 | 0.5 | 0.7 | 20.1 | 15.6 | 6.5 | 8.8 |
平均 | 5.3 | 5.2 | 8.5 | 5.2 | 8.4 | 9.6 | 0.8 | 1.0 | 0.9 | 18.7 | 16.4 | 5.4 | 13.3 |
仕事の内容に興味を持てず | 能力・個性・資格を生かせず | 職場の人間関係 | 会社の将来が不安 | 収入が少ない | 労働条件が悪い | 結婚 | 出産・育児 | 介護・看護 | その他の個人的理由 | 定年、契約期間の満了 | 会社都合 | その他の理由(出向等を含む) | |
19歳以下 | 7.6 | 0.7 | 23.0 | 1.0 | 6.7 | 15.4 | 0.0 | - | 0.0 | 20.9 | 2.0 | 4.4 | 7.5 |
20~24歳 | 4.8 | 4.9 | 10.6 | 7.0 | 9.8 | 13.7 | 1.1 | 0.2 | 0.8 | 24.1 | 4.8 | 3.1 | 10.7 |
25~29歳 | 11.3 | 7.2 | 11.0 | 5.3 | 9.3 | 14.9 | 3.3 | 1.1 | 0.2 | 18.6 | 4.7 | 3.3 | 9.0 |
30~34歳 | 4.7 | 5.3 | 10.7 | 6.6 | 10.3 | 9.7 | 1.8 | 3.3 | 0.3 | 27.6 | 5.9 | 3.8 | 9.2 |
35~39歳 | 8.0 | 7.7 | 12.2 | 7.6 | 10.0 | 7.7 | 0.7 | 1.8 | 0.5 | 20.4 | 6.3 | 7.2 | 9.0 |
40~44歳 | 6.6 | 6.7 | 10.8 | 6.3 | 7.8 | 13.9 | 0.8 | 2.2 | 1.1 | 22.6 | 6.9 | 3.0 | 10.2 |
45~49歳 | 6.0 | 4.7 | 15.7 | 6.0 | 6.8 | 11.1 | 0.1 | 0.9 | 1.5 | 22.1 | 6.4 | 5.4 | 12.2 |
50~54歳 | 6.8 | 6.8 | 8.0 | 5.4 | 6.7 | 6.0 | 0.1 | - | 3.4 | 22.9 | 7.6 | 11.9 | 13.6 |
55~59歳 | 3.3 | 3.4 | 14.3 | 2.8 | 10.0 | 7.0 | 0.1 | - | 1.3 | 21.4 | 8.6 | 7.7 | 19.6 |
60~64歳 | 3.0 | 3.9 | 6.5 | 0.4 | 1.5 | 2.2 | - | - | 0.6 | 13.9 | 51.3 | 4.8 | 8.8 |
65歳以上 | 2.9 | 1.5 | 5.8 | 0.7 | 2.0 | 1.4 | - | - | 0.1 | 19.0 | 51.0 | 9.2 | 4.3 |
平均 | 5.9 | 4.8 | 11.7 | 4.5 | 7.4 | 9.4 | 0.9 | 1.6 | 0.9 | 21.2 | 14.1 | 5.8 | 10.4 |
※四捨五入によって総計が100%にならないことがあります 出典:厚生労働省「令和5年 雇用動向調査」をもとに編集部作成 年代別に辞める理由の傾向を探っていきましょう。 #### ・【 若年層(19歳以下〜29歳)】 <19歳以下>
「職場の人間関係(23.0%)」が突出して高く、若年層特有の職場適応の難しさが見られます。「労働条件が悪い(15.4%)」や「その他の個人的理由(20.9%)」も高く、環境への不満や早期離職の傾向がうかがえます。
<20~24歳、25~29歳>
25~29歳で「仕事の内容に興味を持てず(11.3%)」や「能力・個性・資格を生かせず(7.2%)」が高く、自身のキャリア形成に対するミスマッチが顕著です。「収入が少ない(9.3〜9.8%)」「労働条件が悪い(13.7〜14.9%)」も高く、待遇面への不満も辞める主因となっています。 #### ・【中年層(30~49歳)】 幅広い理由が見られますが、「職場の人間関係(約10〜15%)」が安定的に高い水準です。
30~34歳では「出産・育児(3.3%)」が突出しており、育児期のライフイベントによる離職が見られます。45~49歳では「職場の人間関係(15.7%)」が高く、中堅層における人間関係のストレスが深刻化している可能性があると考えられます。 #### ・【高年齢層(50歳以上)】 60歳以上では「定年・契約期間の満了(50%以上)」が極めて高く、加齢に伴う自然な離職が主な理由となっています。一方で、「職場の人間関係」や「労働条件が悪い」は大幅に低下し、キャリアの終了段階では職場環境への不満は主因ではないことが読み取れます。 #### ・【特筆すべき傾向】 「結婚」「出産・育児」「介護・看護」といったライフイベントに起因する理由は、全年齢で比較的低いものの、25〜34歳ではやや高くなっています。
「会社の将来が不安」は全年齢を通じて比較的低めであり、収入や労働条件といった即時的な要因のほうが影響が強いと考えられます。 「能力・個性・資格を生かせず」は20〜30代でやや高く、年齢が上がるにつれて低下する傾向が見られます。
年齢によって辞める理由は大きく異なり、若年層では「人間関係」「労働条件」、中年層では「育児」「人間関係」、高年齢層では「定年」が主な理由となっています。特に、20〜30代では職業選択のミスマッチや待遇面の不満が離職に直結しやすく、職場とのマッチング支援やキャリア支援の重要性が示唆されます。 ### ●【性別】に見る、辞める理由の傾向 次は性別に見る、辞める理由の傾向です。
単位:% | ||
理由 | 男性 | 女性 |
仕事の内容に興味を持てず | 7.4 | 5.0 |
能力・個性・資格を生かせず | 5.1 | 5.4 |
職場の人間関係 | 9.1 | 13.0 |
会社の将来が不安 | 5.2 | 4.6 |
収入が少ない | 8.2 | 7.1 |
労働条件が悪い | 8.1 | 11.1 |
結婚 | 0.3 | 1.6 |
出産・育児 | 0.3 | 1.6 |
介護・看護 | 0.5 | 1.2 |
その他の個人的理由 | 17.3 | 25.1 |
定年、契約期間の満了 | 16.9 | 9.8 |
会社都合 | 5.8 | 5.3 |
その他の理由(出向等を含む) | 14.0 | 6.9 |
出典:厚生労働省「令和5年 雇用動向調査」をもとに編集部作成 #### ・【男性の傾向】 「定年・契約期間の満了」(16.9%)や「その他の理由(出向等)」
(14.0%)、「その他の個人的理由」(17.3%)の割合が高くなっています。男性は雇用契約の終了や業務上の異動・転籍など、制度的・外部的な理由で離職する傾向が見られます。
「収入が少ない」(8.2%)や「仕事の内容に興味を持てず」(7.4%)など、職務内容や待遇に関する理由も比較的多くなっています。経済的・キャリア上の動機が影響していると考えられます。 #### ・【女性の傾向】 「その他の個人的理由」(25.1%)や「職場の人間関係」(13.0%)、「労働条件が悪い」(11.1%)の割合が高くなっています。職場環境や人間関係、働きやすさへの不満を理由に離職する傾向が強いことが分かります。
「出産・育児」(1.6%)や「結婚」(1.6%)、「介護・看護」(1.2%)など、ライフイベントに関連した理由が男性より高いのは、女性は家庭やライフステージの変化による影響を受けやすい傾向が明確に表れていると考えられます。 男性は「契約満了」「制度的な事情」による離職が多く、収入や仕事の内容などキャリア志向的な側面が色濃く見られます。一方、女性は「人間関係」「労働条件」「ライフイベント」など職場環境や私生活との両立を重視している傾向が見られます。
このデータは、離職対策や職場改善を進める上で、男女のニーズや背景の違いを考慮することが重要であることを示唆しています。 ## ■人事・マネージャーが見落としがちな“潜在的な退職リスク” 社員が退職の意思を表明したとき、その理由が「表向きのもの」であることは少なくありません。人事担当者やマネージャーは、社員が本当に辞めたいと思っているサインや、言葉にならない本音を読み取る必要があります。
このセクションでは、潜在的な退職リスクを見抜くための視点と、社員の本音を引き出すためのコミュニケーション方法について解説します。 ### ●「表向きの理由」と「本当の理由」のギャップ 社員が退職を申し出る際、本心をすべて話すとは限りません。退職を円満に進めたい、次に転職する会社に迷惑をかけたくない、あるいは感情的な理由を言うのが恥ずかしい、などの理由から、「一身上の都合」「キャリアアップのため」「新しい分野に挑戦したい」といった、当たり障りのない理由を伝えることが多いです。
しかし、その裏には、人間関係の悩み、評価への不満、労働条件への不満、会社の将来への不安など、職場環境や会社に対する本当の不満が隠されていることがほとんどです。
この「表向きの理由」と「本当の理由」のギャップを認識することが、離職防止対策を考える上で非常に重要です。退職者が本音を話しやすい雰囲気を作る努力や、普段からの信頼関係構築が不可欠となります。 ### ●早期退職の兆候を見抜くチェックリスト 社員が退職を検討し始めた初期段階では、目に見える形で「辞めます」とは言いませんが、普段とは異なる変化が見られることがあります。これらの早期兆候に気づくことで、手遅れになる前に対策を講じられる可能性があります。以下は、チェックすべき兆候の例です。 以前より会議やチームの話し合いでの発言が減った、意見を言わなくなった。 会社や業務に関する質問や提案をしなくなった。 残業や休日出勤を積極的に避けようとする(ポジティブな変化でない場合)。 チームメンバーとのコミュニケーションが減り、個人的な関わりを避けるようになった。 遅刻や早退、体調不良での欠勤が増えた。 会社のイベントや飲み会など、業務外の交流に参加しなくなった。 仕事へのモチベーション低下が見られる(覇気がない、簡単なミスが増えたなど)。 業務に関係のない資格取得や外部セミナーへの参加意欲を示し始めた。 * デスク周りやPC内のデータを整理し始めた(退職準備の可能性)。 これらの兆候が見られた場合、すぐに退職につながるわけではありませんが、「何か問題を抱えているかもしれない」というアラートと捉え、後述するような面談で本音を聞き出す機会を設けるなどの対応を検討すべきです。 ### ●1on1や面談で本音を引き出すための質問例 マネージャーや人事担当者が社員の本音を引き出すためには、単に「何か不満はある?」と聞くだけでは不十分です。相手に心を開いてもらい、安心して話せる雰囲気を作り出すことが大切です。
以下の質問例は、社員の状況やキャリアに対する考え、会社への期待などを探るのに役立ちます。
「最近、仕事の調子はどうですか? うまくいっていること、逆に少し難しいと感じていることはありますか?」
「今の業務で、特にやりがいを感じる瞬間はどんな時ですか? 逆に、もっとこうなったら良いのに、と感じる点はありますか?」
「今後、会社でどのような経験を積んでいきたいですか? 挑戦してみたい分野やスキルはありますか?」
「部署やチームの雰囲気について、感じていることがあれば教えてください。もっとこうなると働きやすい、といった意見はありますか?」
「会社全体に対して、何か期待していることや、改善してほしいと思っている点はありますか?」
「プライベートとの両立で、何か会社にサポートしてほしいことはありますか? (例:働き方、休暇など)」
これらの質問を通じて、社員が何に価値を感じ、何を求めているのかを理解し、具体的な課題や不満があれば、それに対して真摯に向き合い、改善に向けた対話を重ねることが、信頼関係の構築と離職防止につながります。 重要なのは、質問するだけでなく、相手の話を遮らずに最後まで「聴く」姿勢です。 ## ■離職を防ぐために企業ができる5つの施策 社員が辞める理由の多くは、企業の努力によって改善可能なものです。さまざまな企業の取り組み事例や人事施策の基本を踏まえ、離職率を低下させるために効果が期待できる代表的な5つの施策を具体的にご紹介します。
これらを参考に、自社に合った対策を検討・実行してみてください。
離職を防ぐための5つの施策 |
1.公平な評価制度の導入と見直し |
2.マネジメント力の強化と管理職教育 |
3.柔軟な働き方と福利厚生の改善 |
4.キャリアパス・成長機会の提示 |
5.職場内コミュニケーションの再設計 |
●1.公平な評価制度の導入と見直し
社員が「正当に評価されていない」と感じることは、離職の大きな理由の一つです。離職を防ぐためには、評価基準を明確にし、社員に周知するようにしましょう。
どのような成果や行動が評価されるのかを具体的に示し、評価プロセスを透明化することで、社員は納得感を持って働くことができます。また、評価は一方的に行うのではなく、定期的にフィードバック面談を実施し、評価の根拠を伝え、社員の自己評価ともすり合わせを行うことが重要です。
評価制度は一度作ったら終わりではなく、時代の変化や会社の成長に合わせて定期的に見直し、社員のモチベーション向上につながるように改善していく必要があります。成果だけでなく、プロセスや協調性など、会社の価値観に合った行動も評価対象に含めることも検討しましょう。
●2.マネジメント力の強化と管理職教育
社員のエンゲージメントや定着率は、直属の上司の質に大きく左右されます。離職を防ぐためには、管理職層のマネジメント力を強化することが不可欠です。具体的には、以下の能力が求められます。
- 個別の状況やキャリアの意向を把握し、適切なフィードバックや育成を行うスキル
- チーム内のコミュニケーションを活性化し良好な人間関係を構築する能力
- そしてハラスメントを未然に防ぎ、発生時には適切に対処する能力
これらのスキルはOJTだけでは身につかないため、外部講師による研修や、eラーニングなどを活用した継続的な管理職教育に投資することが、離職防止の有効な手段となります。
●3.柔軟な働き方と福利厚生の改善
ワークライフバランスを重視する社員が増える中で、inflexible(融通の利かない)な働き方しかできない企業は敬遠されがちです。離職を防ぐためには、多様なライフスタイルに対応できる柔軟な働き方を提供することが有効です。 例としては、以下が挙げられます。
- リモートワークやハイブリッドワークの導入
- フレックスタイム制度の導入
- 短時間勤務制度の拡充
- 時間単位での有給取得
- 社員の心身の健康をサポートする福利厚生
- 健康診断の充実
- メンタルヘルスケア相談窓口の設置
- 育児・介護休業制度の利用促進
- 社員食堂の設置や食費補助 など
これらを実施することで社員の安心感や満足度を高め、長期的な定着につながります。これらの制度は、社員のエンゲージメント向上だけでなく、企業の魅力度向上にも寄与します。
●4.キャリアパス・成長機会の提示
社員は、自分が会社でどのように成長し、どのようなキャリアを築けるのかという見通しを持つことを求めています。入社から数年経っても同じような仕事内容で、将来のキャリアパスが見えない場合、成長機会を求めて外部に流出してしまうリスクが高まります。
離職を防ぐためには、社内でのキャリアパスを明確に提示し、社員が目標を持って働けるようにすることが重要です。具体的には、定期的な人事評価面談やキャリア面談で社員の意向を把握し、部署異動や昇進、新しいプロジェクトへのアサインなど、多様なキャリア形成の選択肢を示すことが有効です。
また、業務に必要なスキルだけでなく、リーダーシップやビジネススキルなど、幅広い研修機会を提供し、社員の成長を積極的に支援する姿勢を見せることも、エンゲージメント向上につながります。
●5.職場内コミュニケーションの再設計
風通しの悪い職場環境や人間関係の悩みは、社員の離職理由として常に上位に挙がります。離職を防ぐためには、職場内のコミュニケーションを円滑にし、社員同士や上司部下の信頼関係を構築することが不可欠です。
具体的には、以下などが有効です。
- 部署やチーム単位での定期的な情報共有会議
- 上司と部下との1on1面談の実施
- 部門間の交流を促進する社内イベントの企画
- 気軽に相談できるメンター制度の導入
また、チャットツールや社内SNSなどを活用し、心理的なハードルを下げて気軽にコミュニケーションが取れる環境を整備することも効果的です。 重要なのは、形式的な場だけでなく、日頃から社員同士が気軽に声を掛け合ったり、上司が部下の小さな変化にも気づけるような、オープンで話しやすい雰囲気作りを組織全体で意識することです。
■データとAIで離職リスクを可視化する最新手法
従来の感覚や経験に頼る離職防止策に加え、近年はテクノロジーを活用して社員のエンゲージメントを測定し、離職リスクをデータに基づいて予測する新しいアプローチが登場しています。データとAIを活用した離職防止の取り組みについて、その概要と導入事例(仮想含む)をご紹介します。
●エンゲージメント分析ツールの活用例
エンゲージメント分析ツールは、社員の会社に対する愛着や貢献意欲、仕事への熱意などを定量的に測定するためのツールです。
定期的なアンケート(パルスサーベイなど)や、日々の社内コミュニケーションデータ(匿名化・集計されたもの)などを分析し、社員のエンゲージメントレベルや、エンゲージメントに影響を与えている要因(例:上司との関係、評価、職場環境など)を可視化します。これにより、「どの部署でエンゲージメントが低いのか」「どのような点に社員が不満を感じやすいのか」といった課題をデータに基づいて正確に把握できます。
ツールによっては、特定の属性(年代、性別、部署など)ごとの分析や、過去データとの比較も可能で、課題に対する具体的な施策を検討し、その効果を追跡するPDCAサイクルを回す上で非常に役立ちます。
<主なエンゲージメント分析ツール>
ツール名 | 概要 | 公式サイト |
Qualtrics EmployeeXM | パルス調査やライフサイクル全体をカバーする多機能ツール。AIによる分析機能も搭載。 | https://www.qualtrics.com/jp/employee-experience/ |
Culture Amp | エンゲージメントだけでなく、パフォーマンスやフィードバック文化も支援。 | https://www.cultureamp.com/ |
wevox | 日本発、週次パルス調査で簡易にエンゲージメントを測定・可視化。 | https://get.wevox.io/service/engagement |
MotifyHR | OKR、360度評価、エンゲージメント診断を統合した日本製HRツール。 | https://motifyhr.jp/ |
●AIによる離職予測モデルとは?
AIによる離職予測モデルは、社員の過去の行動データや属性データ(例:入社からの勤続年数、異動履歴、評価履歴、研修参加履歴、サーベイ回答結果など)をAIが分析し、特定の社員が将来的に離職する可能性を予測するものです。
AIはこれらのデータから、過去に離職した社員に共通するパターン(例:ある部署に〇年以上勤務している、特定の研修に参加していない、直近の評価が低い、パルスサーベイで特定の項目に低い評価をつけているなど)を学習し、現在の社員データに照らし合わせることで、離職リスクが高い社員を特定します。
ただし、これはあくまで可能性の予測であり、個人のプライバシーに関わる非常に繊細な情報です。予測結果は、社員を監視するためではなく、リスクの高い社員に対してマネージャーや人事担当者が早期に声かけを行ったり、面談を通じて課題を把握しサポートを提供したりするなど、予防的な働きかけに活用されるべきものです。データの取り扱いや透明性には十分な配慮が必要です。
●エンゲージメント分析ツール導入企業の成功事例
ここでは3社の導入事例をご紹介します。
・【成功事例1】
NRIフィナンシャル・グラフィックス株式会社では、社員の声を経営に活かすためエンゲージメント分析ツール(Wevox)を導入しました。表面的な成功の裏に隠れた社員の課題を可視化するのが目的です。当初は管理職のWevox活用が課題でしたが、個人特性診断とコーチングにより、管理職の自己理解が深まり、部下とのコミュニケーション改善や具体的な行動変容につながりました。今後は「社員が本音で回答できる環境づくり」と「Wevoxの目的理解浸透」が課題。組織全体のエンゲージメントを高め、より良い職場づくりを目指しています。
参照:wevox「Wevox Engagementご利用企業の声」より
・【成功事例2】
キヤノンマーケティングジャパン株式会社は、全国に分散する社員、特に新入社員のエンゲージメント維持と育成に課題を抱えていました。そこでエンゲージメント分析ツール(MotifyHR)を導入し、パルスサーベイを主軸に活用。これにより、離れた社員の状況をリアルタイムで把握し、コミュニケーションのきっかけを作り、不安や孤独を解消することで心理的安全性を高めることに成功しました。今後はデータ活用の範囲拡大や中途採用者への適用も検討し、社員一人ひとりの成長を支援することで、会社の成長を目指しています。
参照:MotifyHR「導入事例」より
・【成功事例3】
株式会社LIXILは従業員と顧客のエンゲージメント向上を目指し、エンゲージメント分析ツールとしてQualtrics CustomerXMとQualtrics EmployeeXMを導入しました。これにより、従業員意識調査の迅速化(3ヶ月→数週間で完了、エンゲージメント約10%向上)や、ショールームでの顧客フィードバックのリアルタイム分析が可能に。単一プラットフォームで多様なインサイトを収集・分析することで、顧客体験の改善と差別化を推進。経営陣やリーダーは必要なデータを柔軟に活用し、効率的なマネジメントと組織全体の改善を実現しています。
参照:Qualtrics EmployeeXM「お客様導入事例」より