■経営戦略の立て方、基本ステップを5段階で解説

経営戦略は一朝一夕で完成するものではありません。ここでは、戦略立案の基本ステップを5段階に分けて解説します。

●STEP1:経営理念・ビジョンを明確にする

経営戦略の起点は、企業の存在意義や将来のありたい姿を明文化することです。経営理念は企業文化の礎となり、ビジョンは長期的なゴールとして全社員の行動指針になります。

例えば「社会に貢献する革新的な製品を提供する」といった理念がある場合、それを実現するための方向性を戦略に反映させます。理念とビジョンが曖昧だと、戦略もぶれやすくなります。

●STEP2:自社の現状分析(内部環境)

自社の強みや弱みを把握することは、戦略を立てるうえで欠かせません。財務状況、人材、技術力、ブランド力、社内の課題などを多角的に分析します。

内部環境分析は、後述するSWOT分析の一環としても活用されます。また、過去の業績データや顧客アンケート、従業員満足度調査など、定量・定性の両面から自社を見つめ直すことが重要です。

●STEP3:外部環境の分析と機会・脅威の把握

次に、自社を取り巻く外部環境の変化を分析します。業界動向、競合状況、規制や法律の改正、顧客ニーズの変化などが対象です。こうした情報をもとに、ビジネスチャンス(機会)とリスク(脅威)を明確化します。

PEST分析を活用すれば、政治・経済・社会・技術の4軸からマクロ環境を整理できます。外部要因を正しく理解することが、現実的な戦略立案につながります。

●STEP4:戦略の選定と目標設定

内部・外部の分析結果を踏まえ、実現可能な戦略を選び、明確な数値目標を設定します。

例えば、差別化戦略を選ぶなら「独自の技術で市場シェアを20%に拡大する」といったKGI(重要目標指標)を定めます。目標はSMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限)に設定することで、実行フェーズでも活用しやすくなります。

●STEP5:戦略の実行・評価・改善

策定した戦略は実行して初めて意味を持ちます。実行計画を立て、社内への浸透、リソース配分、人材配置を行いながら実施します。そして、KPI(重要業績評価指標)を活用して進捗をモニタリングし、必要に応じて改善します。 戦略は一度立てたら終わりではなく、PDCA(計画→実行→評価→改善)を回し続けることが成果に直結します。

■戦略立案に役立つフレームワーク解説

経営戦略を効率的に立案するには、フレームワークを活用するのが有効です。ここでは、代表的な4つの手法を紹介します。

●SWOT分析:強み・弱み・機会・脅威の整理

SWOT分析は、内部環境(Strength:強み、Weakness:弱み)と外部環境(Opportunity:機会、Threat:脅威)を整理することで、戦略の方向性を導く手法です。

例えば「技術力が高い(強み)一方で、販路が弱い(弱み)」など、自社の立ち位置を明確にできます。分析結果はクロス分析として、「強みを活かして機会を捉える」戦略設計に役立ちます。

●PEST分析:マクロ環境の把握

PEST分析は、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4視点からマクロ環境を整理する手法です。

例えば、法改正が市場参入にどう影響するか、人口動態の変化が需要にどのように影響するかを検討します。PEST分析は、中長期的な経営戦略を考える際の出発点として有効です。

●3C分析:顧客・競合・自社の視点で分析

3C分析では、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3者の関係を分析します。

自社がターゲットとする市場のニーズを満たすために、競合との違いをどのように出すかがポイントです。競合の強みや戦略を把握し、それに勝る価値を提供できるかを検討します。3C分析は、競争優位性を築くための戦略設計に欠かせません。

●バリューチェーン分析:社内の価値創出プロセスを見直す

バリューチェーン分析は、厳密には 事業戦略のレベルで用いられることが一般的ですが、経営戦略にも活用される場合があります。

企業活動を一連のプロセス(価値連鎖)として捉え、それぞれがどれだけ付加価値を生んでいるかを分析します。製品開発から物流、販売、アフターサービスまでを分解し、改善の余地がある部分を特定します。これにより、無駄なコストを削減しつつ、差別化できるポイントを明確にすることが可能です。

■経営戦略の成功事例3選

経営戦略の具体的な活用イメージを掴むには、実際の成功事例を知ることが効果的です。ここでは日本と海外の代表的な企業戦略を紹介します。

●トヨタのコストリーダーシップ戦略

トヨタは「トヨタ生産方式」によって、徹底したコスト削減と品質管理を実現しました。これにより、高品質な車を競合他社よりも安価に提供し、グローバル市場での競争優位を確立しています。特に、ジャストインタイムやカイゼン(改善)など、現場主導の継続的改善文化が戦略の成功を支えています。

●ユニクロのグローバル展開とSPA(製造小売業)戦略

ユニクロは、自社で企画・製造・販売までを一貫して行うSPA(製造小売業)モデルを採用し、高品質で低価格な衣料品を提供しています。さらに、グローバル展開を進める中で、現地のニーズに合わせた商品開発や店舗運営を行い、世界的なブランドへと成長しました。自社の強みを最大限に活かす戦略の好例です。

●アップルのイノベーション戦略

アップルは常に革新的な製品を生み出すことで、ユーザー体験を中心に据えた戦略を展開しています。iPhoneやMac、Apple Watchなど、製品間の連携を高め、独自のエコシステムを築きました。また、直営店舗を活用したブランド体験の提供や、サブスクリプションサービスによる収益の多角化も戦略の一環です。

■経営戦略を実行・改善するために必要な視点

戦略は策定するだけでなく、実行と継続的な改善が不可欠です。この章では、戦略の実行を成功に導くために重要な視点を紹介します。

●KPI・KGIを活用した進捗管理

戦略の進捗を可視化するには、KPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)を活用します。KGIは最終目標、KPIはその過程の達成度合いを示します。

例えば、売上1億円達成(KGI)のために、月間顧客数や成約率(KPI)を管理するなど、数字で管理することでチーム全体の意識を統一できます。

●PDCAサイクルによる改善プロセス

戦略は一度決めたら終わりではなく、実行→評価→改善を繰り返す必要があります。PDCA(Plan→Do→Check→Act)を用いることで、現場レベルでの柔軟な改善が可能になります。

特に「Check(評価)」と「Act(改善)」のフェーズを軽視せず、定期的なモニタリングとフィードバックを行うことで、戦略の実効性を高めることができます。

●社内浸透と組織全体の巻き込み

戦略が成功するかどうかは、社内への浸透度にかかっています。トップダウンだけでなく、ミドルマネジメントや現場レベルまで戦略の意図を共有し、共通言語として機能させることが重要です。

社内研修や定例ミーティング、社内報などのコミュニケーション施策を活用し、組織全体が戦略に参加する体制を整えましょう。

■よくある失敗パターンと注意点

経営戦略がうまくいかないケースには、共通する失敗パターンがあります。事前にこれらを理解しておくことで、回避につながります。

●分析不足で表面的な戦略になる

内部・外部環境の分析が不十分だと、戦略は表面的なスローガンに終わってしまいます。

顧客ニーズや競合の動き、技術トレンドなどの深掘りが不十分なまま戦略を立てると、現実との乖離が生じ、成果に結びつきません。丁寧な分析と現場の声を反映することが不可欠です。

●社内の実行体制が整っていない

戦略が明確でも、実行体制が脆弱であれば、期待通りの成果は得られません。 人材不足、責任の所在不明、指示系統の混乱などが起こると、戦略は機能しなくなります。役割分担と進捗管理の仕組みづくりが成功の鍵を握ります。

●短期視点で評価してしまう

経営戦略は中長期的な成果を目指すものです。しかし、短期的な成果ばかりを求めてしまうと、長期的な視点を失い、本来の戦略意図と乖離してしまいます。

定期的な評価タイミングを設け、短期・中期・長期のKPIをバランス良く設計することが重要です。

■まとめ|経営戦略は「分析・設計・実行・改善」の繰り返しが鍵

経営戦略を成功させるには、綿密な分析に基づいた設計と、実行後の柔軟な改善が不可欠です。単なる計画ではなく、組織全体で共有され、持続的に改善されていくプロセスとして捉えることが重要です。

経営戦略の本質は「変化に対応し続ける力」であると理解し、PDCAの実践を通じて継続的にブラッシュアップしていきましょう。