「世界中のデータを繋げることで、ダイレクトに必要な情報にアクセスできる世界を作る。」をミッションに掲げ、法人営業向け企業情報データベース「Musubu」などを展開するBaseconnect株式会社。2017年の創業から急成長を遂げる同社を率いるのは、学生時代から複数の事業を手がけてきた國重侑輝氏だ。

一見、華々しい経歴の裏には、「何者かになりたい」という渇望、壮絶なインターン経験、そして組織の壁に直面した苦悩があった。トップダウンから権限移譲、そして「バランス」へ。経営者としてたどり着いた独自の組織論の背景には、2週間の瞑想合宿や『サピエンス全史』からの学びがあるという。

京都という土地に根を張り、流行に流されず本質を追求する同氏が見据えるのは、「知識を脳にインストール」が実現する未来。その壮大なビジョンと経営哲学に迫る。

國重 侑輝(くにしげ・ゆうき)――Baseconnect株式会社 代表取締役
1990年生まれ。大阪府出身。高校生の頃から、国際NGOの立ち上げを行うなど国内外の貧困問題に関わる。立命館大学国際関係学部在学中にインターネットスタートアップの株式会社Campusを創業。10以上の事業を立ち上げ、月間ユーザー数400万人を達成する。2017年にBaseconnect株式会社を創業。「世界中のデータを繋げることで、ダイレクトに必要な情報にアクセスできる世界を作る」ことを目的に事業を行う。法人営業を支援するクラウド型企業情報データベース「Musubu」の利用社数は18万社(2025年6月現在)。

■AIで実現するデータの「網羅性」と「品質」で情報検索の常識を覆す

── 御社はビジョンに「ダイレクトに必要な情報にアクセスできる世界を作る。」を掲げていらっしゃいますが、どんな事業に取り組まれているのでしょうか。

國重氏(以下、敬称略) 私たちは「情報検索」の分野でイノベーションを起こすことを目指すスタートアップです。具体的には、企業情報や人物情報といったビジネスデータを集約したデータベースを提供しています。データを構造化して整理することで、お客様が知りたい情報へダイレクトにアクセスできる、そうした事業を展開しています。

主力サービスには、法人営業向けの企業情報データベース「Musubu」(ムスブ)があります。これは「今、自社の商材が売れる企業はどこか」を発見するためのツールです。

Musubu」のサービスサイト

また、新規事業として「Riskdog」(リスクドック)も手がけています。これは我々の強みである企業データを活用し、与信管理やコンプライアンスチェックといった企業の審査業務をAIで自動化・効率化するプロダクトです。

── サービスの一番の強みはどこにあるとお考えですか?

國重 データの「網羅性」と「品質」です。私たちは現在、2,000万件のデータ構築を目標としています。日本には約500万社の企業があり、それに加えて店舗や施設など、BtoBデータ領域におけるカバー率、網羅性の高さがまず強みです。

もう一つは、データの正確さ、つまり品質の高さです。データは「生もの」ですから、いかに正確な情報をリアルタイムかつ最新の状態で提供できるかが価値になります。2,000万件ものデータを人力で更新すれば莫大なコストがかかりますが、我々はその裏側でAIを高度に活用し、効率的かつリアルタイムな情報更新を実現しています。

この「網羅性」と「品質」を両立している点が、我々の最大の強みだと考えています。

── ユーザーが感じているメリットはどういったものなのでしょうか?

國重 営業用途なら、まず自社の商材が売れる可能性のある企業や店舗を網羅的にリストアップできます。これにより、潜在的な市場規模を正確に可視化し、効果的なターゲットリストを作成することが可能です。

また、個々の企業へアプローチする際には、情報の「深さ」も重要になります。我々のデータベースは、営業の精度や審査の質を向上させる詳細な情報を提供しており、この点もお客様にとって大きなメリットだと考えています。

── 事業拡大を見据えたパートナーシップ戦略はありますか?

國重 基本的には、自社でエンドユーザー向けのプロダクトを開発し、直接提供していきたいという思いがあります。UI/UXを含めたアプリケーション開発まで自社で行うことで、ユーザーの課題解決に深くコミットできると考えているからです。

しかし、自社だけでアプローチするには限界があります。より大きなインパクトを世の中に与えるため、パートナーシップ事業にも力を入れています。これは、我々の企業データをOEMのような形で他のサービスに提供するものです。

たとえば、名刺管理サービスのSansan、経済情報サービスのスピーダ、地図アプリのナビタイムなど、様々なプロダクトの裏側で我々のデータが活用されています。データのプロバイダーとして、間接的に世の中のナレッジ基盤の構築に貢献していきたいと考えています。

■「何者かになりたい」──挫折と渇望が生んだ起業への原動力

── 学生時代から起業を経験されていますが、その経緯を教えてください。

國重 実は、最初の起業には、大きなビジョンや大義名分があったわけではありません。大学1、2回生の頃からWeb開発のインターンを経験し、フリーランスのデベロッパーとして月100万円ほど稼げていて、その経験から、大学を卒業して新卒で就職するという道が自分にはしっくりこなかったのです。自分が組織になじむとも思えませんでした。

初めは若くしてリタイアし、東南アジアの国で豪邸を構え、メイドを雇って暮らすような生活も考えましたが、まだ20歳なのにそれでいいのか、という疑問も感じていました。それまではクライアントの依頼に応じて制作する受託開発が中心でしたが、次第に自分で事業やサービスを運営したくなりました。

当時はFacebookなどが登場し、エンジニアがPC1台で世界を変えるようなプロダクトを生み出せる時代でした。自分もただ作るだけでなく、一つのプロダクトを継続的に成長させることに挑戦したくなったのです。

そこで、京都の大学生のエンジニアやデザイナーの仲間の仲間とWebサービスを開発し始め、オフィスを借りるために会社を設立しました。「社長」という肩書があれば、受託開発の単価も上がるだろうという程度の考えでした。

── 没頭できた原動力は何だったのでしょうか。

國重 根底には「何者かになりたい」という強い思いがあったのだと思います。“普通”が嫌で、せっかくなら大きなことを成し遂げたい、自分が生きた爪痕を残したい、という思いがありました。

大学に入る前は国際協力に関心があり、高校生で団体を立ち上げ、バングラデシュやパプアニューギニアなど発展途上国を訪れる活動をしていました。しかし、結局は何もできず、無力感を味わいました。もっと世の中に貢献できるスキルを身につけたいという思いが、プログラミングの学習につながったのだと思います。

── 会社を設立してから現在まで、振り返ってみて順調でしたか?

國重 いえ、まったく順調だとは思いません。私は20歳から15年以上も会社経営に携わっていますが、自分が思い描いていた35歳の姿には、まだ遠いと感じています。もっと大きなことを成し遂げているはずでした。ただ、人生が思い通りに進むのも面白くないので、こんなものだろうとも思っています。

── この15年間で、最大のピンチは?

國重 一番きつかったのは起業後ではなく、スキルを学んでいたインターンの時期なんです。初めてベンチャー企業に入り、バリバリ働く環境に身を置いた時が、精神的にも肉体的にも最も過酷でした。

起業してからは、もちろんハードシングスはありましたが、それは当たり前のことだととらえています。人が辞めたり、資金が尽きて消費者金融に駆け込んだりもしましたが、すべては自分の判断の結果ですから。

むしろ、過去のインターン経験や、ホームレス支援の活動で見てきた厳しい現実を思えば、今は優秀な仲間とPC一つで仕事ができる。ある意味、恵まれていると感じます。

■「社長失踪事件」と『サピエンス全史』。瞑想と読書がもたらした経営観の転換

── 組織論については、過去にメディアのインタビューでも答えていらっしゃいますね。以前お受けになったインタビューから変わった点はありますか?

國重 ベースは変わりませんが、「バランス」という点に集約されるようになりましたね。

創業初期はトップダウンの軍隊的な組織でしたが、社員が60名、アルバイトを含めると200〜300名規模になった頃、権限移譲を進めました。しかし、それだけではうまくいきませんでした。

かつて私は、マイクロマネジメントは悪だと考えていました。しかし、権限移譲を徹底したことで、逆にトップダウンやマイクロマネジメントの重要性に気づかされました。世の中には絶対的な善悪はなく、「任せるべきこと」と「そうでないこと」のバランスを、その時々で見極める“中庸”が大切だと学びました。

以前は私が先頭を走り、ついてこないメンバーを無理やり引っ張るようなスタイルしかできませんでした。しかし、一度任せる経営を経験したことで、両方のスタイルを状況に応じて使い分けることの重要性を理解しました。偏らないバランス感覚を持った経営が、今の私の価値観の多くを占めています。

── 権限移譲を考え始めたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?

國重 そうですね。一時期、私の直属の部下が80〜90人にまで増え、承認待ちの列が一日中できるほど、自分が完全にボトルネックになっていました。この仕事は自分にしかできないという思い込みもありましたが、心身ともに限界でした。

そんなとき、思い立って京都の山奥にある瞑想センターに2週間こもることにしたのです。ネットも通じない場所で、まさに社長失踪事件です(笑)。2週間後、「会社は潰れているかも」と覚悟して戻ったら、何事もなかったかのように組織は回り、仕事は進んでいました。

この経験から、「自分がいなくても組織は機能する」ということを実感し、これが権限移譲を進める大きなきっかけになりました。

── なるほど。そんなきっかけがあったのですね。ところで経営において、影響を受けた本はありますか?

國重 ここ5年で最も印象に残っているのは、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(河出書房新社)です。

私はもともと、ビジョンやミッションといった抽象的なものを語るのが好きではなく、「良いものを作って売る、それがビジネスだ」と考える実務的なタイプでした。しかし、組織が100人規模に近づくと、社員からビジョンやミッションを求める声が上がり始めます。ちょうどその頃にこの本を読み、“虚構”の重要性に気づかされました。

人類が150人以上の集団を形成できたのは、国家や宗教、会社といった“虚構”、つまり共通の物語を信じる能力があったからだ、という話です。

会社も法人という実体のない“虚構”ですが、それは強大な力を持つ。この本を読んで、組織をまとめ、同じ方向に進むためには、ビジョンやバリューといった“虚構”がいかに重要であるかが納得できました。それ以来、こうした理念の策定に力を入れるようになりました。

■流行の中心・東京を離れ、京都でこそ貫ける「本質的なものづくり」

── 大阪のご出身ですが、大学から京都に来られ、そのまま京都で起業されました。なぜ京都を拠点に事業を続けられているのでしょうか。

國重 学生時に起業したので、流れで京都になったのが正直なところです。しかし、今あえて京都で事業を続ける理由を考えると、いくつかあります。

まず、私は流行りの事業を追うのが好きではありません。東京にいると、どうしても周りの流行や競争が気になってしまいます。京都は良くも悪くもそうした喧騒から距離を置けるため、他に影響されすぎず、自分たちが信じるプロダクト作りに腰を据えて淡々と取り組める場所だと感じています。

個人的にも、都会すぎず田舎すぎない京都の環境が気に入っています。ビジネス面でも、東京に行けば埋もれてしまうかもしれませんが、京都であれば関西を代表するスタートアップの一つとして、地域の金融機関などからも応援していただけます。採用面でも、京都には約10万人の学生がいる一方で、インターン先が少ないため、意欲的な学生を採用しやすいというメリットがあります。

── リーダーとして、特に影響を受けた方はいますか?

國重 京セラの創業者である稲盛和夫さんからは多くの影響を受けています。当社の監査役が、稲盛さんの第一秘書だった方で、その教えに触れる機会がありました。個々の組織が独立採算で動く「アメーバ経営」は、私たちが目指す自律分散型の組織と通じるものがあります。

また、「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉にも深く共感します。短期的な欲望やエゴで経営判断を下すのではなく、その動機が善であるか、私心がないかを常に自問自答する姿勢です。

私自身、経営判断が感情に流されないよう、5〜6年前から瞑想を日常的に実践しています。瞑想は感情の波をコントロールし、常に冷静な状態でパフォーマンスを上げるための重要なツールです。思いつきで行動するのではなく、一度立ち止まり、リセットされた状態で物事を判断する。この習慣が、今の私の経営を支えています。

■いずれ来る「知識を脳にインストールする時代」に向け、ナレッジエンジンを構築する

── 10年後、どのような世界を目指しているか、未来のビジョンを聞かせてください。

國重 私たちのビジョンは「世界中のデータを繋ぐ」ことです。最終的には、あらゆる知識のインフラとなる「ナレッジエンジン」を構築したいと考えています。

世の中には情報があふれていますが、それらは断片的で整理されていません。ChatGPTのような生成AIも登場しましたが、本質的な意味で情報を構造化しているわけではありません。我々は、「オントロジー」(知識を体系化し、コンピュータが理解できるように表現するための概念や枠組み)という概念に基づき、世の中の情報を真に整理し、人やAIが使いやすい形の知識ベースを提供したいのです。

私は、4〜5年後には学校教育のあり方も大きく変わっていると考えています。記憶する作業は、本来機械が最も得意とすることです。いずれは、必要な知識を脳に直接インストールするような世界が来ると信じています。イーロン・マスクが共同で設立した米国のニューラリンク社などが研究を進めており、これは決してSFだけの話ではありません。

私たちがそのベースとなるナレッジを提供することで、人々は暗記作業から解放され、より創造的で人間らしい活動に時間を使えるようになります。それが実現できれば、世の中は大きく進歩するはずです。

【関連リンク】

Baseconnect株式会社 https://company.baseconnect.in/