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「社員のモチベーションが上がらない」「優秀な人材がなかなか定着しない」「会社のビジョンが現場まで浸透していない」

多くの経営者が抱えるこれらの悩みは、実は「人事制度」に起因しているかもしれません。人事制度は、単に給与を決めるためのルールではありません。経営理念を社員一人ひとりの行動に落とし込み、企業の成長を加速させるための最も重要な経営インフラです。

しかし、一度作った制度が形骸化していたり、会社の現状に合わなくなっていたりするケースは少なくありません。 本記事では、人事制度の基本から、自社の課題を解決し、持続的な成長を実現するための構築・見直しの具体的なステップ、そして陥りがちな罠まで、経営者の視点で分かりやすく解説します。

人事制度とは?経営の根幹を支える仕組みを再確認

人事制度とは、社員の採用から退職までにわたる処遇の仕組み全体を指します。

具体的には、社員に求める役割や能力を定義し、その貢献度を公正に評価し、評価結果を処遇(給与や昇進・昇格)に反映させる一連のルールです。

重要なのは、これが単なる管理ツールではないということです。優れた人事制度は、経営者が掲げるビジョンや経営戦略と深く結びついています。「どのような人材に、どのように活躍してもらい、会社をどこへ導きたいのか」という経営者のメッセージそのものであり、社員の行動を促し、組織文化を醸成する羅針盤の役割を果たします。会社の根幹を支えるこの仕組みを正しく理解することが、変革の第一歩となります。

なぜ今、人事制度の見直しが経営課題となるのか

かつて有効だった人事制度が、現代のビジネス環境では機能不全を起こしているかもしれません。今、多くの企業で人事制度の見直しが急務となっている背景には、無視できない3つの環境変化があります。

第一に、「働き方の多様化」です。終身雇用を前提とした年功序列型から、個人の専門性や成果を重視するジョブ型雇用への移行、リモートワークの普及など、働き手一人ひとりの価値観は大きく変化しました。画一的な制度では、多様な人材の意欲を引き出すことは困難です。

第二に、「労働人口の減少」です。深刻な人手不足のなか、優秀な人材の獲得競争は激化しています。社員に選ばれ、長く活躍してもらうためには、納得感と成長実感のある人事制度が不可欠です。

そして第三に、「事業環境の急速な変化」です。DXの推進やグローバル化など、ビジネスの不確実性が高まるなかで、企業には迅速な変革が求められます。変化に対応できる自律的な人材を育成し、組織全体のパフォーマンスを最大化する戦略的な人事制度が、企業の競争力を左右する時代になったのです。

人事制度を構成する3つの柱とそれぞれの役割

人事制度は、大きく分けて「等級制度」「評価制度」「報酬制度」という3つの柱で構成されています。これらは互いに密接に連携しており、どれか一つが欠けても制度全体はうまく機能しません。それぞれの役割を理解し、一貫性を持たせることが重要です。

等級制度──社員の序列や役割を定める「骨格」

等級制度は、社員に求める能力や役割のレベルを段階的に定義し、社内における序列や位置づけを明確にするものです。いわば、組織の「骨格」にあたります。一般社員、リーダー、管理職といった階層や、「1等級」「2等級」といった等級を設定し、それぞれの等級で求められる職務内容や責任、能力(スキル)を定義します。この骨格がしっかりしていることで、社員はキャリアパスを具体的にイメージでき、目標設定がしやすくなります。

評価制度──社員の貢献度を測る「物差し」

評価制度は、等級制度で定められた役割や目標に対して、社員の働きぶりや成果、貢献度を一定の基準で測る「物差し」の役割を担います。評価は、能力評価、業績評価、情意評価(勤務態度など)といった要素で構成されるのが一般的です。公正で透明性の高い評価制度は、社員の納得感を高め、成長を促すためのフィードバックの根拠となります。何が評価されるのかを明確にすることで、会社が社員に期待する行動を具体的に示すことができます。

報酬制度──貢献に報いる「エンジン」

報酬制度は、評価制度によって測られた貢献度に対して、金銭的な報酬(給与、賞与など)で報いる仕組みです。会社の成長を牽引する「エンジン」ともいえます。等級や評価結果と連動させることで、社員の努力や成果が正当に処遇に反映されることを示し、モチベーションを大きく左右します。基本給、各種手当、賞与、インセンティブなど、さまざまな要素を組み合わせ、会社の業績や個人の貢献に報いる最適なバランスを設計することが求められます。

失敗しない人事制度 構築・見直しの5ステップ

効果的な人事制度は、思いつきで導入できるものではありません。現状を正しく分析し、会社の目指す姿から逆算して設計するプロセスが不可欠です。ここでは、失敗しないための構築・見直しの5つのステップを解説します。

ステップ1:現状分析と課題の明確化

自社の人事制度の現状を客観的に把握することから始めます。「評価基準が曖昧で、評価者によってばらつきがある」「給与が年功序列のままで、若手の成果が報われない」「優秀な人材ほど早く辞めてしまう」といった課題を、経営層だけでなく、管理職や一般社員へのヒアリング、アンケートなどを通じて多角的に洗い出します。ここで課題を具体的に特定することが、的確な制度設計の土台となります。

ステップ2:経営理念・ビジョンとの接続

次に、自社の経営理念やビジョン、中期経営計画などを再確認し、それを実現するために「どのような組織であるべきか」「社員にどのような行動を期待するのか」を定義します。たとえば、「挑戦を推奨する文化」を目指すのであれば、失敗を許容し、プロセスも評価する制度が必要です。この「あるべき姿」とステップ1で洗い出した「現状の課題」とのギャップを埋めることが、新しい人事制度の目的となります。

ステップ3:制度の骨子(3本柱)の設計

目的が明確になったら、等級・評価・報酬の3つの柱の骨子を設計します。ステップ2で定めた「求める人物像」をもとに、どのような等級制度(職能資格制度、役割等級制度など)が適しているかを検討します。そして、その等級で求められる行動や成果をどのように評価するのか(MBO、コンピテンシー評価など)、評価結果をどのように報酬(月給、賞与の配分)に結びつけるのか、一貫性をもって設計していきます。

ステップ4:シミュレーションと調整

制度の骨子が固まったら、必ずシミュレーションを行います。新しい制度を適用した場合、社員の給与や昇格がどのように変動するのかを試算し、人件費の総額が経営計画と乖離しないかを確認します。特に、特定の社員に不利益が集中しないかなど、多角的な視点で検証し、必要に応じて評価基準や報酬テーブルを微調整します。このプロセスを丁寧に行うことで、導入後の混乱を最小限に抑えることができます。

ステップ5:社員への説明と導入、そして改善

完成した人事制度は、全社員に対して丁寧に説明する場を設けることがきわめて重要です。制度改定の背景や目的、会社からの期待を経営者自身の言葉で伝えることで、社員の納得感と協力を得ることができます。導入後は、定期的に運用状況をモニタリングし、社員からのフィードバックを収集しましょう。人事制度は一度作って終わりではありません。事業環境や組織の変化にあわせて継続的に見直し、改善する“生き物”であるととらえることが成功のカギです。

【要注意】人事制度で陥りがちな3つの罠

良かれと思って導入した人事制度が、かえって社員の不満を招き、組織を停滞させるケースは少なくありません。ここでは、多くの企業が陥りがちな3つの罠について解説します。

罠1:他社の成功事例をそのまま導入してしまう

「流行りのジョブ型雇用を導入しよう」「あの有名企業と同じ評価制度にしたい」。他社の成功事例は魅力的ですが、それをそのまま自社に持ち込んでもうまく機能しません。企業文化や事業フェーズ、社員構成が異なれば、最適な制度も異なります。参考にするのは良いですが、あくまで自社の理念や課題にもとづいて、オリジナルの制度を設計するという視点を忘れてはなりません。

罠2:評価者の育成を怠る

どれだけ精緻な評価制度を作っても、運用する評価者(管理職)のスキルが伴わなければ意味がありません。部下の行動を正しく観察し、基準に沿って公正に評価し、本人の成長につながるフィードバックを行うためには、専門的なトレーニングが必要です。評価者研修などを通じて、評価の目的や基準の目線あわせを徹底しなければ、制度は形骸化し、社員の不信感を生むだけです。

罠3:一度作ったら放置してしまう

人事制度は、導入がゴールではありません。事業環境は常に変化し、組織も成長します。導入当初は最適だった制度も、数年経てば陳腐化してしまう可能性があります。定期的に社員満足度調査や運用状況のヒアリングを行い、制度が本来の目的を果たしているかを検証する仕組みをあらかじめ作っておくべきです。PDCAサイクルを回し、常に最適化を図る姿勢が求められます。

注目される人事制度の最新トレンド

最後に、これからの時代を見据えるうえで知っておきたい、人事制度の最新トレンドをいくつか紹介します。ただし、前述のとおり、流行に飛びつくのではなく、自社の目的達成に資するかどうかを冷静に見極めることが大切です。

ジョブ型雇用 専門性の高い人材の獲得などに有効

メンバーシップ型雇用(人に仕事をつける)とは対照的に、職務内容(ジョブ)を明確に定義し、その職務を遂行できる人材を配置・評価する考え方です。専門性の高い人材の獲得や、業務と処遇の透明性を高めるうえで有効とされています。

ノーレイティング 評価の主眼を人材育成に置く考え方

「S・A・B・C・D」といった画一的なランク付け(レイティング)を廃止し、評価を給与査定のためだけでなく、人材育成を主眼に置く考え方です。上司と部下による1on1ミーティングなどを通じた、リアルタイムで質の高いフィードバックを重視します。

リアルタイムフィードバック より頻繁かつタイムリーに行う

年に1〜2回の形式的な評価面談だけでなく、日々の業務のなかで、より頻繁かつタイムリーにフィードバックを行う手法です。目標達成に向けた軌道修正や、社員の迅速な成長を促す効果が期待されています。

最初から完璧な制度を目指す必要はない

人事制度は企業の成長を左右するきわめて重要な経営ツールです。それは、単に社員を管理するためのものではなく、経営者の理念を組織の隅々まで浸透させ、社員一人ひとりの力を最大限に引き出すための「設計図」にほかなりません。

完璧な制度を最初から目指す必要はありません。大切なのは、自社の「今」を正しく見つめ、「未来」のあるべき姿を描き、そこへ向かうための仕組みとして、自社ならではの人事制度を構築し、そして粘り強く改善し続けることです。

経営者の仕事は、事業をつくることであると同時に、人が育ち、活躍できる「場」をつくることでもあります。この記事が、貴社の社員がより一層いきいきと躍動し、組織が新たな成長ステージへ向かうための、人事制度改革の一助となれば幸いです。