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「人が足りないから採用する」。特に中小企業や成長フェーズにある企業において、採用活動がこの一言で片付けられてしまうことは少なくありません。しかし、その場しのぎの採用では、採用コストがかさみ、入社後のミスマッチによる早期離職は後を絶たず、結果として経営戦略の達成を遠ざけてしまう場合もあり得ます。

本来、採用計画は「単なる欠員補充」ではありません。それは、未来の事業を支えるための組織の設計図であり、経営戦略と強く結びつくべき最重要経営テーマの一つです。採用は、未来への投資であり、経営者が強くコミットすべき戦略領域なのです。

経営戦略を力強く進めるための「戦略的な採用計画の立て方」を、具体的な5つのステップに最新の視点も交えながら、詳細に解説します。

なぜ経営者に「採用計画」が不可欠なのか?3つの明確な理由

採用計画は経営戦略から逆算しての立案が、理想的です。そして、経営トップ層の責務でもあります。その理由は、事業の持続的な成長と効率化に直結した、以下の3点に集約されます。

1. 経営目標と人材のズレをなくすため

「3年後に売り上げを2倍にする」「新規事業を立ち上げる」といった経営ビジョンや中期目標の達成には、現行の組織体制で「何が不足しているのか」の洗い出しがまず必要です。

採用計画がなければ、ただ現場部門の要望を積み上げるだけの採用となり、結果として会社全体から見た「本当に必要な人材」とのズレが生じます。

経営戦略と連動させれば、「この事業を成長させるために、このスキルを持った人材が必要」という明確な採用基準を設けられ、ミスマッチの大幅な減少につながります。人事が採用したい人材と、事業の成長のために不可欠な人材の間に生じるギャップを埋めるのが、経営戦略と連動した採用計画の最大の役割です。

2. 採用コストと時間を最適化するため

計画性のない採用活動は、広告費やエージェント費用といった採用コストの浪費につながります。また、選考期間が長引けば、優秀な候補者が競合他社に流れてしまうリスクも出てくるでしょう。

採用計画を策定し、合格率や辞退率といった過去のデータを計画に織り込むことで、どのプロセスに課題があるのか、どの採用手法に予算を集中すべきかが明確になります。結果として、限られた経営資源であるコストと時間を、最も効果的な活動への投入につながるのです。

特に、採用手法ごとの「採用単価」(Cost Per Hire)を正確に把握することは、採用予算の費用対効果を高める上で欠かせません。

3. 社内の「採用力」を統一・強化するため

採用は人事部門だけが行うものではなく、面接官を務める役員、現場の社員、そして経営者自身による全社的な活動です。戦略的な採用計画を共有し、「なぜ採用の必要があるのか」「どのような人材を採用したいのか」「どの方法で採用するか」という共通認識が社内に醸成されます。

これにより、各面接官が独自の評価基準で候補者を見極める、といった属人的な採用になるのを防げます。また、現場の社員にも採用戦略の概要を説明し、「なぜあなたに協力してもらいたいのか」を伝えることで、リファラル採用の促進や内定後のオンボーディング体制の構築など、現場の協力を得やすくなり、採用全体の質を高められるでしょう。

全社で採用力を高めることは、企業文化の維持・強化にもつながります。

経営戦略と連動させる!採用計画策定の5ステップ

採用計画は、「未来の会社をデザインする設計図」です。その設計図を、経営者が主体となって描くための具体的な5つのステップを、詳細に解説します。

Step 1:【経営課題の明確化】「なぜ」採用するのかの定義

採用計画の最上流は、経営戦略の把握です。まず、「自社の事業計画は何か」「中長期的にどのような組織を目指すのか」を明確にします。

【実践のポイント】

  • 事業計画の分解: 中期経営計画や単年度の事業計画を、部署・プロジェクト単位に分解し、それぞれの目標達成に必要なKGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)を確定します。
  • 既存リソースの棚卸し: 各部署の現在の組織図、社員のスキルマップ、生産性を客観的に評価します。特に、将来的に退職・異動が予測される人材や、スキルが陳腐化する可能性のある業務を洗い出します。
  • ギャップの特定: 目標達成に必要なリソースと、現状のリソースとの間の「ギャップ(不足・課題)」を明確にします。このギャップこそが、「なぜ(Why)」採用するのかの明確な理由となります。
  • 例: 「3年後の新規事業立ち上げには、現在のコア事業とは異なる『DX推進スキル』を持つ人材が、最低でも3名不足している」

この「なぜ」の部分が曖昧だと、後の採用要件もブレてしまいます。単に「今の欠員を埋める」のではなく、「新規事業を成功させるため」「既存事業の効率を上げるため」といった、採用が経営戦略にどのような貢献ができるのかの明確な定義が重要です。

Step 2:【採用要件の具体化】「誰を」採用するのかの決定

目的が明確になったら、その達成に必要な人材像、すなわち採用ターゲットとペルソナを詳細に設定します。

【実践のポイント】

  • 要件の三層構造で定義:
  • ハード面(スキル・経験):すぐに業務に貢献できる専門スキル、過去の経験、資格など(例:ECサイトのPL経験3年以上、TOEIC 800点以上)
  • ソフト面(スタンス・価値観):企業文化、チームとの相性、仕事への取り組み姿勢(例:変化への適応力、グローバルマインドセット、京都の企業文化への共感)
  • ポテンシャル(将来性):未経験でも、今後の成長によって経営課題を解決できる可能性(例:学習意欲の高さ、ロジカルシンキング能力)
  • MUST/WANT条件の明確化: 要件には優先順位を付け、「MUST条件」(必須条件)と「WANT条件」(歓迎条件)に分けましょう。これにより、面接官による評価基準のバラつきを防ぎ、募集状況に応じた要件の見直しもしやすくなります。特に、MUST条件は最小限に絞り込むことが、ターゲット層を広げる上で重要です。
  • ペルソナシートの作成: 氏名や年齢、転職理由、転職先企業に求めること、情報収集源、口説き文句など、架空の理想的な候補者像を具体的に言語化します。これにより、採用メッセージや手法を決める際の共通軸が生まれます。

Step 3:【人員計画の策定】「何人」「いつまでに」必要かを決める

次に、現在の組織図と、将来、目指す組織図との差分を把握し、新規採用で埋めるべき人数を決定します。

【実践のポイント】

  • 人員計画の策定: すべての不足を新規採用で補うのではなく、内部の育成や配置転換、外部パートナーへのアウトソーシングも視野に入れた上で、純粋な採用人数を決定します。職種別・雇用形態別の目標数の設定も必要です。
  • 欠員率・離職率の考慮: 過去の実績に基づき、現在の社員が計画期間中にどれだけ離職・異動があるかを予測し、その分の補充人数も計画に組み込みます。
  • 採用歩留まりの計算: 過去のデータ(応募数、書類通過率、面接通過率、内定承諾率)に基づき、目標人数達成に必要な「母集団」(応募数)を逆算します。
  • 例: 内定承諾率が10%の場合、1人の採用には10人への内定出しが必要。面接通過率が50%の場合、内定出し10人には20人の面接が必要……という具合に逆算します。
  • スケジュールの逆算: 入社後の育成研修が一通り終わるタイミングをゴールとして逆算し、具体的な採用スケジュールを策定します。特に優秀な人材は転職期間が短いことを考慮し、選考プロセス全体のリードタイム(所要期間)を可能な限り短縮した計画を立てるのが重要です。

Step 4:【採用戦略の決定】「どうやって」採用するかを選ぶ

決定した採用要件に基づき、ターゲットに効率的にアプローチできるよう、採用手法を選定します。

【実践のポイント】

  • 採用チャネルの選定と分散:
  • 人材紹介: 専門性の高いポジションや緊急性の高い採用に有効ですが、コストは高めです。
  • ダイレクトリクルーティング: 潜在層に直接アプローチでき、自社の熱意を伝えやすい手法です。
  • リファラル採用: 社員の紹介による採用であり、企業文化とのマッチ度が高く、定着率が高い傾向があります。
  • 自社メディア/ウェブサイト: 採用情報だけでなく、企業理念や社員インタビューなど、採用ブランディングを担う重要なチャネルです。
  • 各チャネルの予算配分: Step 3で算出した歩留まりと、チャネルごとの採用単価(費用対効果)を比較し、予算を最適配分します。
  • 採用コンセプトの策定: 自社の強みや価値観、仕事の醍醐味を凝縮した採用コンセプトを定め、すべての採用ツールで統一して使用します。これにより、優秀な人材を惹きつける求心力を高めます。
  • 「非認知層」へのアプローチ: 転職意欲が低いが優秀な人材(潜在層)に対して、自社の魅力を継続的に届けるためのコンテンツ戦略(ブログ、SNS、セミナーなど)も計画に組み込みます。

Step 5:【実行体制と予算の確定】「誰が」「いくらで」実行するか

最後に、採用活動にかかわる体制、役割分担、予算を確定させます。

【実践のポイント】

  • 実行体制と責任者の明確化: 採用プロセス全体のオーナーシップを持つ責任者(経営層が望ましい)と、各選考ステップ(書類選考、面接、内定フォロー)の担当者を明確にします。
  • 面接官のトレーニングと評価基準の共有: 面接官によって候補者への印象や評価基準がブレないよう、面接官トレーニングを実施し、Step 2で定めた採用要件と評価基準を徹底的に共有します。
  • 採用プロセスの「体験」設計: 候補者が自社を志望し続けるための「候補者体験」(CX=Candidate Experience)を設計します。スピーディな対応(内定出しやフィードバックの迅速化)はもちろん、選考を通じて企業への理解が深まるような、対話型のプロセスを意識します。
  • KPIとフィードバックの仕組み: 採用計画は、実行だけでなく振り返りと見直しが不可欠です。KPI(応募数、採用人数、定着率、入社後の業績貢献度など)を設定し、計画と実績の差分を分析して、継続的に改善するサイクルを確立します。特に、採用決定後3年後の定着率を見るなど、長期的な視点での評価が必要です。

激変する時代に対応!戦略的採用における2つの重要視点

現代の採用市場は、少子高齢化による労働人口の減少、AI技術の進展、働き方の多様化などにより、かつてないスピードで変化しています。経営層が必ず持つべき、現代的な視点について解説します。

1. AI・テクノロジーがもたらす「人材要件の再定義」

デジタルトランスフォーメーション(DX)やAI技術の進化は、社内のさまざまな業務を自動化し、数年後の人材需要を根本から変えようとしています。

  • 不要になるスキル: ルーティンワークや単純作業に関わるスキルは、徐々にAIに代替されるでしょう。これらのポジションを単なる「欠員補充」で採用し続けるのは、未来の負債になりかねません。
  • 求められるスキル: AIを「使いこなす能力」、AIが生み出すデータを「解釈する能力」、そしてAIが代替できない「創造性」「複雑な問題解決能力」「人とのコミュニケーション力(共感力)」といった、人間固有の能力がより重要になります。
  • 経営者の視点: 採用計画を立てる際、「このポジションは5年後、AIによってどのように変わるか」という視点を必ず加えると、技術変化に対応できるポテンシャルを持つ人材を優先して採用することにつながるでしょう。こうしたプロセスが、企業の未来を左右します。

2. 優秀な人材を惹きつける「採用ブランディング」の重要性

人材不足が深刻化する中、企業は「選ぶ側」から「選ばれる側」へと立場が変化しています。優秀な人材を惹きつけるには、給与や福利厚生といった条件だけでなく、「この会社で働く意味」を明確に伝えられるかが鍵となります。これが採用ブランディングです。

採用ブランディングの核となるのが、価値の伝達です。 企業の存在意義(パーパス)、経営者のビジョン、その仕事が社会に与える影響、そして社員が成長できる環境など、企業独自のストーリーを具体的に発信します。

採用計画が「絵に描いた餅」で終わりやすい3つの落とし穴

綿密に計画を立てても、その実行段階で思わぬ落とし穴にはまることがあります。経営者が押さえるべき3つの注意点です。

1. 現場の意見を聞きすぎた「理想の超人」ペルソナ

現場責任者の意見は重要ですが、すべての要望を盛り込んでしまうと、「高いスキル、専門知識、主体性、協調性、コミュニケーション能力、そして謙虚さも……」といった、市場にほとんど存在しない「理想の超人」がペルソナになってしまいます。

採用要件は、あくまで経営目標達成に必要な最低限の能力に絞り込み、優先順位の低い要素は、入社後の育成で対応することを前提としましょう。特に中小企業においては、一人の人材にすべてを求めるのではなく、チーム全体で不足を補えるかという視点が不可欠です。

2. 競合や市場を無視した「自社都合」のスケジュールと条件

「できれば早く」「できれば給与は低めに」といった自社都合の計画は、採用市場の現実に適合せず、応募が集まらない、内定辞退の多発といった事態を招きます。

採用活動を始める前に、求人倍率や競合他社の待遇、アピールポイントの調査が極めて重要です。また、選考期間が長引くと辞退につながりやすいため、面接の日程調整やフィードバックを迅速に行うなど、候補者体験・CXの向上も必要となるでしょう。

採用市場は、需要と供給で決まる「市場」であることを認識し、市場価値に見合った条件提示を行う冷静な判断が経営者に求められます。

3. 「入社後の定着」が計画に含まれていない

採用計画は、「内定」「入社」がゴールではありません。採用した人材が企業に定着し、活躍することこそが真のゴールです。

採用計画には、入社後のオンボーディング(受け入れ・定着プログラム)や、育成方針を必ず含めるようにしてください。特に成長フェーズにある企業や新卒採用を始める企業は、「即戦力」という言葉を文字通りにとらえがちですが、企業側が活躍できる「器」を用意できなければ、優秀な人材も意欲を失ってしまいます。

入社後のミッション、評価制度、メンター制度などを明確にし、入社後の3ヵ月間を特に重点的なフォローができる計画が必要です。

採用計画は、未来の会社をデザインする「設計図」である

採用計画は、人事担当者の仕事である以前に、経営者が未来の会社をデザインする「設計図」を確定させる重要なプロセスです。

目の前の欠員補充に追われるのではなく、まずは「3年後のありたい姿から逆算する」という視点に切り替えてください。そして、本記事で解説した5つのステップを参考に、経営戦略と連動した採用計画を策定してください。それを実行し、データに基づいて分析、改善のサイクルを回すことで、事業成長は一層加速するでしょう。

採用を戦略的な投資ととらえると、盤石な組織基盤を持つ未来につながります。