京栄ニチユ,麻田社長

物流業界は「2024年問題」に代表される深刻な人手不足に伴い、自動化の流れが急速に進んでいる。この激動の時代において、創業70年を超える老舗商社がいかにして変化し、次代へとバトンをつないでいくのか。

フォークリフトを中心とした物流機器の販売・メンテナンスを手がける京栄ニチユ株式会社。2022年に3代目社長として就任した麻田裕貴氏は、従来の「モノ売り」から脱却し、顧客の課題を解決する「コト売り」 重視の事業方針を進めている。

組織づくりにおいては、トップダウン型の経営から、社員一人ひとりが自律的に動く組織への変革に挑む。伝統ある企業の「第2の創業」 ともいえる改革の現在地と、採用難という現代的な課題に立ち向かう次世代リーダーの戦略に迫った。

麻田 裕貴(あさだ・ひろき)──京栄ニチユ株式会社代表取締役社長
1984年、京都府生まれ。2007年、神戸大学を卒業、三菱重工業株式会社に入社。出向を経て、2018年、京栄ニチユ株式会社に入社、常務取締役。2022年7月、代表取締役に就任。

物流機器商社から「課題解決のパートナー」へ

── 長い歴史をお持ちですが、まずは事業の概要と、現在の主力となる取り組みについて教えてください。

麻田 当社は基本的に商社機能をメインとしていまして、自社でモノをつくっているメーカーではありません。お客様の工場や倉庫で使用される物流機器をメーカーから仕入れ、販売するというのが基本的なビジネスモデルです。 納入後のメンテナンスも含めてトータルでサポートしています。

フォークリフト,京栄ニチユ
(写真提供=京栄ニチユ)

メイン商材はフォークリフトで、京都の総合物流機器メーカーであるロジスネクスト(旧・三菱ロジスネクスト)さんの一次代理店としての機能が、主な事業の柱です。また、フォークリフトに限らず、工場や倉庫で使用される物流機器および周辺機器全般を含め、幅広く取り扱っております。

実は私自身、大学卒業後は三菱重工業に勤めておりまして、そこから出向という形で現在のロジスネクストさんでお世話になった後、家業に戻ることになりました。

かつての上司や同僚が、今はメーカー側のカウンターパートとして一緒に仕事をしている。 そうした深い信頼関係や人的ネットワークがあることも、お客様へのきめ細かな対応を可能にする当社の大きな強みになっています。

── 単にモノを仕入れて売るだけでは差別化が難しい時代かと思います。具体的にはどのような変化が起きているのでしょうか。

麻田 おっしゃるとおりです。「モノを仕入れて売る」というのは、あくまで表面的な事業の姿にすぎません。実際にはお客様と対話し、抱えている課題やニーズを深くヒアリングしたうえで、「では、こんなものがありますよ」「こういった改善ができますよ」と提案し、形にしていく。それが私たちの本来の仕事だと考えています。

近年、お客様からの相談で圧倒的に多いのが「自動化・省人化」です。労働力不足は深刻化しており、フォークリフトを運転するオペレーター自体が減ってきています。 「フォークリフトではなく、もっと自動でできることはないか」「人を少なくして回せるシステムはないか」といった相談が増えています。

京栄ニチユ
(写真提供=京栄ニチユ)

昔ながらの、人が運転して荷物を運ぶというオペレーションから、自動倉庫に無人搬送車(AGV)や無人フォークリフト(AGF)などを組み合わせたシステムの導入へと、トレンドは確実にシフトしています。

また、既存のフォークリフトも大きく変わってきています。フォークリフトは自動車業界よりももっと早い段階から電動化が進んでおり、昔は全体の3割程度だったのが、今では6〜7割近くがバッテリー車になっています。まだエンジン車の比率が高い国もありますが、日本では確実に電動化の流れが進んでおり、最近ではリチウムイオンバッテリーを搭載した機種など環境性能と利便性を両立した車輌がエンジン車の代替としてニーズが高まっています。

「トップダウン」からの脱却と、現場のとまどい

── 歴史ある組織を2022年から社長として率いるにあたり、どのような組織づくりを目指されたのでしょうか。

麻田 私が社長に就任したのは2022年ですが、入社したのは2018年です。それまでは三菱重工業株式会社の社員として、火力発電プラントのビジネスに関わっていました。

当社は1949年創業で、私で3代目になります。創業者である祖父、そして先代である父の時代は、どちらかというとトップダウンで物事が決まることが多かったようです。

全員ではありませんが、どこか「社長が右と言えば右」「会社や上司の指示通りやるのが仕事」という空気が強かった。逆に言えば、自分で考えなくても仕事が進んでいく環境だったともいえます。

創業からこれまでの事業フェーズにおいてはそれで良かった、むしろその方が仕事がスムーズに進み、業績も伸ばし続けてくることができました。しかし、これからの時代、そのやり方を続けていては社員も会社も成長できません。

私は社長就任前から、「私が言ったとおりになる会社ではなく、皆さんが自分で考えて動ける組織になってほしい」と言い続けてきました。

たとえば、以前は各営業所で購入する備品一つひとつまで、すべて社長決裁が必要でした。私はその必要性も含めて現場で判断してもらうところから始めたいと思い、権限委譲を進めました。

── 実際に権限を委譲してみて、社員の皆さんの反応はいかがでしたか。

麻田 正直に申し上げますと、最初はとまどいのほうが大きかったと思います。

「自由にしていいよ」「自分で考えてください」と言われると、逆に「え、それってダメだったのでは?」「どうしたらいいんですか?」となってしまう。

今までトップダウンで決まっていたことに慣れきっていた人たちからすると、急に「自由」を与えられたことは、ある種のストレスだったかもしれません。

そこで、社内で「サステナビリティ推進プロジェクト」というものを立ち上げました。これからも持続的に成長していく組織になる為に必要なことを社員のみんなで考え、それを実行するというものです。

大まかに言うと、社内の制度や規則の見直し、業務プロセスの効率化、企業としてのブランディング、ワークライフバランスの見直し、といったことに取り組んでもらっています。この活動を通じ、自分たちで物事を考えて取り進めていくことを経験し、慣れてほしい。

さらに言うと、会社のことをもっと”自分ごと”だと感じて欲しいです。そうなれば、主体性が向上し積極的な取組みも増え、業務効率も上がる。それが業績に繋がれば社員の待遇も改善できる。そういった良いサイクルの循環が生まれてくれることにも期待しています。

京栄ニチユ
(写真提供=京栄ニチユ)

古参の社員からは、「社長はどうしたいんですか?」「そんな自由にやらせていいんですか?」という意見も出てきました。 私が「今までの状態を変えたいから、あえて自由にやってみてと言っているんです」と伝えても、そこには大きなギャップがありましたね。

自分でリーダーシップを取って多少強引にでも進めていくべき場面と、社員に任せて個々の主体性を引き出し自律を促すべき場面がある。このバランスを取るのは、とても難しいと感じています。

BtoB企業の壁、「知名度不足」と新卒採用の苦悩

── 組織改革と並行して、人材の確保も重要な課題かと思います。採用活動の状況はいかがでしょうか。

麻田 これは当社に限ったことではありませんが、BtoB企業、特に私たちのような物流の裏方を支える企業にとって、新卒採用は非常に高いハードルになっています。

学生の皆さんの目には触れにくい仕事ですから、そもそも会社の存在を知ってもらうことが難しい。

物流機器を取り扱っていると聞いても、具体的な仕事のイメージが湧かない学生さんがほとんどではないでしょうか。

また、最近の傾向として、学生の皆さんが就職先を決める際の判断材料として、ご両親の意見を重要視されるケースが多くなったように感じます。

そうなると、やはり「知名度」が低いというのはディスアドバンテージです。どれだけ良い仕事をしていても、知られていなければ選択肢の土俵にすら上がれない。

採用活動をする中で、この「知名度の壁」を痛感することが多々あります。

── 優秀な人材を獲得するために、どのような手を打たれているのでしょうか。

麻田 まずは認知してもらうための接点を増やすことですね。

その一つが、京都ハンナリーズさんへのスポンサードです。

BtoB企業がスポーツチームのスポンサーになることに対して、「直接的な売り上げにつながらないのでは?」という声もあります。たしかに、これをしたからといってすぐにフォークリフトが売れるわけではありません。

しかし、採用ブランディングという観点では、一定の効果を期待しています。先ほど申し上げた通り、就職活動をする学生の皆さんやそのご両親に会社名を知って頂くところがスタートだと考えています。

京都ハンナリーズとの共闘で目指す未来

── ハンナリーズへのスポンサードを決めた経緯や、具体的な狙いをお聞かせください。

麻田 ご紹介いただいたことがきっかけですが、もともと自分が中学・高校とバスケットボールをしていて、このスポーツが好きであることも大きいですね。

このハンナリーズさんとの取り組みは、単に看板を出すだけではありません。 試合会場のビジョンで当社のCMを流させていただいたり、さまざまなコラボレーションを通じて「京栄ニチユ」という名前を目にする機会を増やしています。

直近では、2027年卒の学生さんなどを対象に、「会社説明会&試合観戦ご招待」というコラボイベントを開催しました。

京栄ニチユ
(写真提供=京栄ニチユ)
京栄ニチユ
(写真提供=京栄ニチユ)

まず当社の説明会に参加していただいた後、そのままハンナリーズの公式戦を一緒に観戦するという企画です。 堅苦しい説明会だけでは伝わりにくい当社の社風や雰囲気を、スポーツ観戦というライブ感のある場を通じて感じてもらいたい。そして、京都を代表するチームを一緒に応援することで、学生さんたちとの距離を縮めたいという狙いがあります。

若い世代に人気のあるバスケットボールというスポーツを通じて、学生さんたちに「あ、このロゴ見たことある」「おもしろそうな会社だな」と思ってもらうこと。それが採用活動の入り口になればと考えています。

また、これは地域貢献の一環でもあります。 私たちは京都で商売をさせていただいている企業ですから、地元のチームを応援することで、京都全体を盛り上げたいという思いも強いです。 社員もハンナリーズを応援することで一体感が生まれますし、「自分たちの会社はこういう活動もしているんだ」という誇りにもつながるはずです。

今はまだ手探りの部分もありますが、知名度向上だけでなく、社員のエンゲージメント向上も含めた広義の採用戦略として、今後も力を入れていきたいですね。

── 御社は京都に本社を構え、滋賀や兵庫にも拠点を展開されています。京都でビジネスを行うことについて、どのようにお考えですか。

麻田  私自身、京都府出身です。若い頃はあまり意識しませんでしたが、この歳になると京都の良さ、ありがたさを実感しますね。この街には長い歴史があり、人々の営みと熱量が積み重なっています。海外の方とお話しするときも、「京都です」と言うだけで興味を持っていただける。これはすごいアドバンテージです。

また、私は現在京都経済同友会に所属しており、そこで多くの経営者の方々と交流させていただいています。

京都の経営者は個性的で、独自の技術や強みを持った会社が非常に多い。そして、皆さん「伝統」を大切にしながらも、常に新しいことに挑戦されています。

「古き良きものを守りつつ、革新を続ける」。このバランス感覚こそが、京都企業の強さの源泉ではないでしょうか。

── 京都のビジネス環境については、よく「一見さんお断り」などといわれますが、実際はいかがでしょうか。

麻田 たしかに、新規で入り込むのは難しい側面があるかもしれません。

当社の営業活動においても、飛び込みで行ってすぐに話を聞いてもらえるほど甘くはありません。「うちは昔からあそこの会社と付き合ってるから」と言われることは多々あります。

しかし、一度信頼関係ができると、それが非常に長く続くのも京都の特徴です。

「京栄ニチユさんは何十年も前からお願いしているから」と、ありがたいことに代が変わってもお付き合いを続けてくださるお客様も多いです。

懐に入るまでは大変ですが、一度入ってしまえば、家族のように大切にしていただける。そういう土地柄だと感じています。

「なくてはならない会社」であり続けるために

── 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

麻田 まずは、現在進行中の2027年までを期間とする5ヵ年の中期経営計画を、しっかりと着地させることです。 正直に申し上げますと、売上高に関しては当初の目標達成は厳しい状況にあります。

しかし一方で、利益に関しては目標を達成できる見通しが立ってきました。 これは、単なる「モノ売り」から、付加価値の高い「コト売り」への転換が進み、現場の努力が質の高い利益として実を結び始めている証拠だととらえています。

ただ、数字以上に大切にしたいのは、「お客様にとってなくてはならない会社であり続ける」ということです。 これは、当社が今後100年、200年と続いていくために最も重要なことだと考えています。

扱う商品や技術は、時代とともに変わっていくでしょう。フォークリフトの形も変わるかもしれませんし、物流の仕組み自体が変わるかもしれません。 それでも、モノを動かすという「物流」自体はなくなりません。 その中で、物流のプロフェッショナルとして、「京栄ニチユさんの技術がないと困るね」「何かあったらまず京栄ニチユさんに相談しよう」と言っていただける存在でありたいと思います。

京栄ニチユ
(写真提供=京栄ニチユ)

そのためには、私たち自身が変わり続けなければなりません。「自律型組織」への変革もその一環です。社員一人ひとりがお客様の課題に向き合い、自分で考え、提案できる集団になること。 そして、採用活動を通じて新しい風を入れ続けること。 そうすれば、たとえ扱う商品が変わったとしても、私たちは生き残っていけるはずです。

また、現在の経営体制は、先代の父から私と副社長である弟との二人にバトンタッチしてもらいました。経営全般について副社長は私のサポートをしてくれていますし、副社長の得意とする分野に関しては全面的に任せています。「二馬力」で会社の課題に取り組めるメリットは活かしていきたい部分です。また、各部門長には取締役・執行役員として実務面を統率してもらっており、それぞれ頼もしいメンバーに支えられ、経営にあたることができています。

これからはこの経営体制のもと、M&Aや他社との提携も含め、既存事業との親和性を考慮しながら新しい事業も構築していきたいと考えています。 京都という歴史ある土地に根ざしながら、しなやかに変化し続ける企業でありたいですね。