京都に本社を構える株式会社SCREENホールディングスは、半導体製造装置事業やディスプレー製造装置および成膜装置事業、プリント基板関連機器事業、グラフィックアーツ機器事業、ICTソリューション事業など幅広く事業を展開している。
8つの国内主要事業所に加え、北米やヨーロッパ、アジア、オセアニアにグループ会社を抱えるグローバル企業には、文化的な背景が異なる人たちが集うのも特徴である。
その中でイノベーションを創出するためのキーワードがダイバーシティだろう。廣江敏朗代表取締役 取締役会長は「自分たちの存在意義」を従業員たちに浸透させることが大切だと話す。
自分たちの技術的な強みを次にどう展開するかが大切だ
── 事業が多岐にわたっていますが、会社のルーツとなる事業は何でしょうか。
廣江 祖業は江戸時代の印刷業です。(創業者は)芸術家で絵を描いていたのですが、その絵を流布するために印刷業を始めたと聞いています。明治元(1868)年には印刷会社として印刷物をさまざまな所に卸していくようなこともやっていたようです。明治4(1871)年に開催された京都博覧会のパンフレットも手がけたという話が残っています。
── 現在は半導体製造装置事業やグラフィックアーツ機器事業など幅広いですが、印刷業からどういった経緯で事業展開を広げていかれたのですか。
廣江 もっと効率的に印刷したい。だったら、こんな部品があったほうがいい、あんな設備もほしいと考えたようです。そして自分たちの印刷を効率化するために作り出した機器を、今度は販売していきます。その開発部門がのちの大日本スクリーン製造株式会社であり、株式会社SCREENホールディングスの原形になります。
社名の「スクリーン」は、ガラススクリーンという印刷用の部品から付けられています。ちょっと技術的な話で申し訳ないのですが、このスクリーンには20ミクロン程度のすごく細かいメッシュを均一に作る技術が必要でした。この技術が当時としては非常にユニークな技術で評判もよかったようです。そして今度は製版用のカメラなどを開発して製版機械と部品をセット販売していきました。これが創業から40年くらいの話です。
そして1970年代に入り、この技術をもっと違う領域で使えるのではないかという話が出てきます。コーティング技術やエッチング技術を駆使してテレビのブラウン管のシャドウマスクという部品を開発しました。これを機にエレクトロニクス業界へと参入していきます。このシャドーマスクが大当たりし、それを足掛かりにそして半導体製造装置やプリント基板関連機器、ディスプレー製造装置など幅広い領域へと参入していくことになります。
─そういった歴史背景の中で、創業の精神「思考展開」は生まれたのでしょうか?
廣江 そうだと思います。自分たちの技術的な強みを次にどう展開するのかを常に考え、大切にしてきた会社だと言えます。現在は「ソリューションクリエーターとして、社会の課題解決にイノベーションで立ち向かう」という、より明確な言葉で事業を進めています。
コロナ禍は企業として一つの正念場だった
─ 代表取締役社長に就かれたのは2019年ですが、直後にコロナ禍の世の中になりました。経営的に難しかったのではないでしょうか。
廣江 私がバトンを受けた時、我々は景気に左右されるような経営のやり方をしていました。コロナ禍となり、最初の頃はお客様が投資を躊躇されるような時期となり、我々もガクッと落ち込みました。当時の内部オペレーションのやり方が、景気の山・谷に対して耐久性を持っていなかったのが原因でした。
── 耐久性を上げるために取り組まれたことは何でしょうか。
廣江 いろいろな手法を取り入れながら改革をしましたが、最も効果的だったのはROIC(Return On Invested Capital)経営と呼ばれる経営方法を導入したことです。今までは収益性だけを追いかけていましたが、効率性を伴いながら収益を上げていこうという考え方を取り入れました。それが非常に功を奏しました。
そこへ、コロナ禍でリモート需要が上がっていきました。コミュニケーション方法として対面形式が取れませんので、何でもオンラインで打ち合わせをしようとか、リモートでやろうという雰囲気になりました。その影響で半導体がものすごく不足してきました。(半導体洗浄装置で世界トップシェアを誇る)我々にとっては正念場でしたが、効率性を上げられるように装置を改善したことで生産効率も上がり売り上げも上がっていきました。
それまではあまりキャッシュ(現金)がなかったのですが、効率性を追求したことでキャッシュが残るようになりました。借金経営だったのが、今はキャッシュリッチの経営になっています。それを今度は何に投資してどんな事業を展開していくのかというフェーズに来ています。
── 次の事業展開としてはどのようなものをお考えでしょうか。
廣江 いろいろとありますが、半導体を見ますと、技術や市場が大きく変わってきています。技術的には、半導体の微細化をしながら高性能化、低コスト化、省電力化を図ってきました。
ただ、微細化については技術的には一世代進めるのに時間と莫大な設備投資を要するようになっています。それを補うために、チップレットと言って、いろんなチップを混載しようという発想で、デバイスの進化を実施するようになってきています。そこにソリューションを提供したいというのが新規領域の一つになります。
ソリューションクリエーターがたくさんいる状態を目指す
── 新しい領域へ進む上で、リーダーの存在は欠かせないと思います。廣江会長が考えるリーダー論をお聞かせいただけますか。
廣江 株式会社SCREENホールディングスとして10年後(2035年)のありたい姿を考えています。
当社が取り組むマテリアリティ(重要課題)は4つあります。新しい価値(社会と人々に新しい価値の提供)、環境(環境負荷低減を推進)、人材(社員一人ひとりの成長を促進)、経営基盤(持続的の経営基盤の強化)です。
10年後には既存の考え方がどんどん通用しなくなっていって、新しい価値の創造が、どんどん難しくなっていくのではないかと予想しています。以前のリーダーは、1つの方程式を磨き上げることで勝ち抜けてきたと思いますが、10年後には通用しなくなると考えています。
いろんなルールがコロコロと変わって、新しい技術も生まれてくる。その流れの中で自分たちがイノベーションを起こしながら、ソリューションを出していかないと、お客様から評価されないような社会が来るのではないかと考えています。そんな近い未来に合わせて会社をどう作っていくのかがポイントではないでしょうか。
── 既存の価値観が変わる中で、求められるリーダー像はどのようなものでしょうか?
廣江 イノベーションを起こし、ソリューションを出していける人材だと思います。我々はそういう人材をソリューションクリエーターと呼んでいます。我々が考えるソリューションの定義は、社会に役立つ、お客様から信頼されるものを提案していくことです。
イノベーションは開発関係ですのでいろいろ新しいことを生み出せますが、それをソリューションに仕上げてお客様に販売していかないと事業としては成り立ちません。ソリューションを創出するほうが難しいと考えていますが、そういう意味でソリューションクリエーターが会社にたくさんいる状態にしておかないと、会社の存続が厳しくなるのではないかと思っています。
企業の存在意義を従業員に理解してもらう
── 文化背景の異なる人々が協働するグローバル企業において、企業の存在意義を組織全体に浸透させることは一つのテーマになりますか。
廣江 そうですね。創業の精神「思考展開」という言葉を大事にしてきましたが、これはどちらかといえば方法論です。我々の存在意義は「人と技術をつなぎ、未来をひらく」というものです。これは設立80周年を機に設定しました。世代を超えて、世界を超えて、人と技術をつなぎ合わせ、我々は未来をひらくソリューションを作っているのだということを表した言葉です。
しかし、その言葉を従業員が理解しないと意味がありません。ですので、私は2023年から2025年の2年間で62回、世界中の現場を回ってタウンホールミーティングを開催してきました。
事業所などによって従業員の業務は異なります。たとえばシンガポールでは装置を販売したり、お客様先で装置のメンテナンスサービスをしたり、あるいは半導体の事業所もあれば、印刷関連の事業所もあります。そういうさまざまな環境で働く仲間に対して「企業全体が一つの目的のために動いている」ことを理解してもらう必要があります。そのための活動がタウンホールミーティングです。
こだわったのはリモートではなく、従業員と対面で行うことです。目を見て話すことで、こちらの熱量が伝わるからです。
海外で実施した際には自分たちがこういう目的のために頑張っているのだと初めて理解し、感動する従業員も多くいました。その時は私も込み上げるものがあり、震えた記憶があります。
企業が大きくなればなるほど、大きな目的の中に自分がいることを理解してもらうことが大切だと思います。
「太く長く」が企業としては理想
── 創業地も本社も京都ですが、京都には「太く短く」よりも「細く長く」を重んじるような風潮があると聞きます。株式会社SCREENホールディングスとしても「細く長く」が理想でしょうか。
廣江 ご存じのように京都には古くからやっておられる会社も多いですが、社会に対してどれだけ貢献できるかという意味では「細く」は「やっぱり細く」でしかないと思います。
昔の方は、太くすると返って倒れやすいという意味でおっしゃったのだと思いますけれど、強靭な内部を作ることで太くても倒れない企業にできると考えています。それを実現されている会社も京都にはたくさんありますからね。
実際は、太くなければ社会課題の解決は難しいのではないかと考えています。たとえば、半導体の技術は我々の装置がなければ実現できないですし、実現できなければ、次のAI時代だって来ないのです。現状のビジネスから得たキャッシュを水素ビジネスに投資して成功すれば、化石燃料がなくなった時のエネルギー問題に我々がソリューションを出せるということです。
未来に我々が貢献できれば、そこに集いたいと考える従業員や仲間のモチベーション向上にもつながります。やはり「太く長く」が理想です。
取材・文 白井邦彦
写真 宮原和也
編集・京都リーダーズ編集部