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コロナ禍という未曾有の危機は、外食産業にパラダイムシフトをもたらした。人手不足や非接触需要の高まりを受け、DX(デジタルトランスフォーメーション)はもはや選択肢ではなく急務となっている。そうしたなか、学生起業からスタートし、業界の注目を集める存在となったのがファンフォ株式会社だ。

同社を率いる喬(キョウ)氏は、モバイルオーダーシステムを通じて、飲食店のオペレーションに「手軽さ」と「データ活用」という武器を提供している。特筆すべきは、その成長を支える経営哲学だ。

Apple創業者、故スティーブ・ジョブズ氏の「Think Different」を指針とし、既存のプレイヤーとは異なり「訪問しない営業」などの独自路線を貫くことで、高コスト体質だった既存のPOSレジ業界に風穴をあけた。

学生起業家がいかにして組織を拡大させてきたのか、その意思決定の極意や、京都から世界市場を見据える「インターネット企業」としての野心に迫った。

喬 恒越(きょう こうえつ) ──ファンフォ株式会社 代表取締役
中国生まれ。2013年に来日し、立命館大学、大阪大学大学院で経営学・経済学を専攻。大学時代よりゲームメディアとWebサイトを企画・運営し、企画力と集客力を磨く。2020年、大学院在学中に、飲食店が抱える人手不足をはじめとする経営課題の解決を志し、「人々のライフスタイルを変える」という信念のもと、あらゆる飲食店で導入可能なフリーミアムモデルとモジュール化をコンセプトに据えたモバイルオーダー・POSアプリ「funfo」を設計し、ファンフォ株式会社を創業。

スティーブ・ジョブズに憧れ、ライフスタイルを変えることを目指す

── ファンフォのあゆみ、社名の由来や現状について教えてください。

喬氏(以下、敬称略) ファンフォを設立したのは2020年10月、大学院修了の半年前、いわゆる学生起業でした。

当時はコロナ禍で、身の回りの飲食店が深刻な打撃を受けていました。採用難や人手不足も深刻化するなか、私たちはセルフオーダーをより手軽に実現できるモバイルオーダーに大きなニーズがあると確信し、会社を設立しました。

社名はもともと「fun food」でしたが、フード以外への展開も踏まえ、「funfo」にしました。

── 起業は昔から考えていたのですか?

 元々、親が起業家だったこともあり、私自身も会社をつくることに以前から興味を持っていました。大学の授業をきっかけにスティーブ・ジョブズの半生を学んだのですが、それが私にとって大きな転機になりました。ちょうどその頃、私自身もガラケーからiPhoneに買い替えた時期で、指先ひとつで世界とつながり、アプリが人々の生活を劇的に便利にしていく様子を、まさに肌で実感していたんです。

たった一人の情熱から生まれたプロダクトが、これほどまでに世界中のライフスタイルを塗り替え、後世にまで影響を与える。その圧倒的な姿に「純粋にカッコいい」と憧れました。自分もビジネスという手段を使って、人々の生活に何かしらの痕跡を残したいと強く思うようになったんです。

とはいえ、大学院のときには就職活動をしたんです。その過程でグループディスカッションなども経験して、考えを具現化できる起業のほうが自分には合っていると感じました。協調性も大切ですが、皆の意見を混ぜた結果、最悪な案になることもありますから。

── 御社のサービスの特徴や強みについてお聞かせください。

 サービスの特徴は大きく3点あります。「手軽さ」「CRM」「AI」です。

まず「手軽さ」についてですが、私たちは高額なシステムを導入できない飲食店が多いという課題に着目しました。これまでの高額なシステムは、営業担当者や専門家による訪問、ネット設定などが必要でした。

私たちはこれを簡単にして、訪問なしで導入できるシステムを実現しました。これにより、多くのお店が私たちの介入なしにシステムを活用でき、結果として安価に導入できています。これが手軽さの源泉です。

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(画像提供=ファンフォ)

2点目は「CRM」(Customer Relationship Management:顧客関係管理)です。2021年にはLINEミニアプリと連携したサービスをいち早く提供しました。ユーザーIDがあるため、来店回数などのデータを把握できます。個人情報ではないデータですが、お店の健康度合い、たとえばリピート率などを知ることが可能です。

さらに、LINEの配信機能を使ってお客様の再来店を促進したり、お客様がクーポンを利用したりできる機能もシステムから実現できます。これが私たちのCRMの強みです。

3点目は「AI」です。POSレジは販売管理だけでなく、調理スピードなどお店に関わるほぼすべてのデータを集約する存在です。

しかし、飲食店の皆様はITリテラシーをそれほど必要とせず、良い料理と良い接客ができればお店はやっていけると考えていて、ITに関する部分には興味がない経営者が多いのですが、データの分析ができないとお店に潜む課題は分かりません。

そこで私たちは、POSと会話できるAIを開発しています。「最近どうですか?」といった軽い質問をするだけで、回答してくれます。

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ファンフォが開発しているfunfo AI(画像提供=ファンフォ)

お店が導入しやすく、使いやすく、そして価値が高いという3点を実現するために努力しています。

── 今後さらに注力したい点や改善したい点はありますか?

 改善したい点は2つあります。1つはAIをさらに強化することです。お客様の仕事をAIが代行処理できるような世界を目指しています。たとえば、シフトが自動的に組まれるなど、データを説明するだけでなく、活用する世界観を追求したいです。

もう1つは、サービスの幅を拡張することです。たとえば、CRMのクーポン配信機能は、これまでお客様自身が設定する必要がありましたが、AIが自動的に処理してくれるようにしたいです。

「クーポンを配信すれば来週の売り上げが上がりますよ」「今日は雨かもしれないので、早く皆さんに配信しましょう」といったリマインドもAIが行うモバイルオーダーを実現したい。システム提供にとどまらず、お店が活用できる価値を提供し、お店の皆様が料理とサービスに集中すれば、経営が自然と良くなる世界をつくりたいと考えています。

起業のアイデアの見つけ方・意思決定で大事にしているジョブズの言葉

── 社員の半数がエンジニアとのことですが、喬社長もエンジニアリングやコンピューター関係を学ばれていたのですか?

 いいえ、私はエンジニアリングやコンピューターを専門に学んできたわけではありません。どちらかというと、事業や仕組みをどう作るか、という視点でずっと考えてきました。

AIについても、技術そのもの以上に、「現場でどう使われるか」「どうすれば価値につながるか」が大事だと考えています。実際には、AIを導入しても、何を聞けばいいのか分からない、どう業務に組み込めばいいのか分からない、という課題が多いです。私たちは、そうした“活用できない理由”を整理して、現場で使える形にすることに強みがあります。

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(写真提供=ファンフォ)

そこで、質問の仕方やワークフローを設計し、AIが良い回答や反応をするための構造化を私たちが担います。モデルは他社のものを使いますが、皆様が活用できる仕組みと、そこから価値を引き出す仕組みを作るのが私たちの領域です。

── 導入時に訪問せず、オンラインで完結できるとのことですが、POSレジは基幹システムなので、トラブル時の対応が重要だと思います。その点はどのようにされていますか?

 現状、99%は現場訪問せず、ほぼオンラインで説明し、説明すら不要なお店もあります。私たちは事前にしっかり説明したうえで、導入当日はホットラインを設けています。分からないことがあれば電話でスタッフに聞ける体制です。また、クラウドベースのシステムであるため、ネットワークやハードウェアの故障を除けば、オンライン上でログデータを確認し、ほとんどの問題特定と解決ができます。

── 起業のアイデアはどのように見つけたのですか?

 会社を始める前にゲームSNS・サイトを運営していました。YouTubeやSNSの運営で月数十万円の収益があり、今の会社の開発資金に充てました。共同創業の同級生4、5人と始めたのですが、当初は皆に給料を払える状況ではありませんでした。そこで、まずマーケットを考え、規模が大きい業界からスタートしました。

起業には課題の明確化が不可欠ですが、学生だった私は仕事経験が少なく、アルバイトもあまりしていませんでした。親も日本にいないため、身の回りの情報しかありません。そこで、よく行く飲食店が何に困っているのかを観察しました。

── 社長として、組織づくりや経営面で大切にしていることはありますか?

喬 起業家は段階を経て成長するものだと考えます。会社のすべての仕事内容を一度経験することが重要なので、設立当初、CS、営業、プロダクト開発など、全体を経験しました。

特に起業家は、各段階の状況把握と課題の明確化が求められます。勉強力やストレス耐久性も必要です。状況をしっかり見極め、後から来るメンバーに正しい道を示す責任があります。人が少ないうちは、自分で経験し、社員と一緒に正しい道を探すべきです。

それができたことで、課題の把握と解像度が高まり、社員との会話で何に困っているのかを理解し、対応できるようになります。これにより、皆の信頼も高まると考えています。

── 新しいことを始めたり、決断をするときに重視していることはありますか?

 決断には2つあると思います。1つは、後戻りできない決断。これは非常に慎重に行う必要があります。たとえば、株主を導入する際の出資などです。

もう一つは後戻りできる決断。これは自分で判断しても良いですし、社員に権限を譲渡し、皆に判断してもらうことも重要だと考えています。この2つを分けて考えるべきです。

── リーダーとして参考にしている経営者や書籍、言葉などは?

喬 故スティーブ・ジョブズ氏です。彼の経歴は起業家としてかっこいい人生だと思います。彼の「Think Different」(他人と違うことを考えよう)というスローガンは、私たちの意思決定の際に活用しています。

他社がすでにやっていることで、それ以上のものができなければ、やる必要があるのかという問いです。例えば、POSレジやモバイルオーダーは他社もやっていますが、私たちは「訪問しない」というアプローチをとります。訪問しないために何をすべきかを考えるのです。

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(写真提供=ファンフォ)

機能はたくさん作れますが、私たちは機能が大量にあっても意味がないと考え、お客様にどう活用してもらうかを考えます。この意思決定の際に、スティーブ・ジョブズ氏から多くを学ばせていただいています。

京都に拠点を構えることのメリットは多い

── 飲食店への営業はどのようにされてきたのですか?

 オフライン営業はあまりせず、オンラインが中心です。ネット広告や検索、口コミなどからお問い合わせをいただき、商談を実施して獲得しています。

京都の会社が最初から訪問営業をしていたら不利でしかありません。東京であれば可能かもしれませんが、京都の会社だからこそ、逆の考え方、いわゆる「Think Different」をしないとやっていけないと考えています。

任天堂さんのように、皆が画面の美しさを追求するなかで「ゲームは画面ではなく面白さだ」という異なる道を歩み、100年以上も大企業であり続けている会社を尊敬しています。私たちも営業担当者で勝負するのではなく、異なるアプローチをとるべきだと考えています。

── 京都に拠点を置いてビジネスをするメリットと大変なことは何ですか?

 メリットとしては、お客様と名刺交換する際に京都に本社があることが必ず話題にな理、今後遊びに行ってもいいですか?と言っていただけ、自然と洗練されたイメージを持っていただけます。

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ファンフォのオフィス(写真提供=ファンフォ)

もう1つは、IT系のスタートアップが京都には少ないため、行政からの支援が東京よりも手厚いのではないかと感じています。1社あたりのリソースが多い印象です。

それに、京都は鴨川が街の真ん中にあり、きれいな場所がたくさんあるなど、リフレッシュに適した環境です。私たちの会社は五条烏丸にあり、歩いて5分ほどで木屋町に着きます。行き詰まったときには社員と散歩したり、鴨川に行ったりします。ゆっくりとリフレッシュでき、インスピレーションを高められる場所だと感じています。

大変なこととしては、お客様の本社はが東京に多いことです。そのため出張が多く、2025年今年の8月には東京オフィスも設立しました。とはいえ、京都で開発などを進めつつ、東京での営業もできるようになったので、今は不都合は一切ありません。

── フード以外への展開もできそうですが、スポーツとの連携について何かアイデアはありますか?

 スポーツといえば、NBAが好きで、特に中学時代は試合をよく見ていました。トヨタアリーナ東京(お台場)には、すでに私たちのモバイルオーダーシステムが導入されています。

── 京都ハンナリーズにも向日市に新アリーナを建設する計画があるので、来場者が便利になる施策は参考になりそうです。

 ぜひ参考にしていただければと思います。

2026年、その先の目標、AIの進化とグローバル展開

── 2026年など直近の目標と、その先の将来的な目標についてお聞かせください。

 2026年の目標は、東京オフィスをさらに拡張し、京都でも採用を増やすことです。私たちのサービスはまだ完成形ではなく、足りない部分がたくさんあります。改良しながら、より多くのお客様に導入いただけるようにしたいですね。

長期的な目標としては、AIをさらに進化させ、ユーザーを中心に素晴らしいサービスを提供したいです。

私たちは日本の飲食POSのワークフローにおいて、AI導入が進んでいる会社だと自負しています。これが実現できたら、国内だけでなく海外にもこのサービスを届けたいと考えています。

── 海外展開について、エリアや国、地域などでイメージは?

 人手不足の地域や人件費が高い地域で価値を発揮できると考えているため、新興国が候補になるでしょう。先進国ではローカルの強い会社が多いため、私たちのサービスが彼らと比べてどれほどのパフォーマンスを出せるか、お客様の属性上、勝てるかどうかを見極めて展開したいです。先進国の場合は、ローカルビジネスを分析したうえで、私たちが入り込む余地があるかを判断します。

── ご出身の中国でのビジネス展開についてはどうお考えですか?

 可能性としてはなくはないと思っていますが、中国は競争が激しいですし、中国のSMB(中小企業)はSaaSをあまり好まず、大企業だと自社でシステムを作る傾向があります。そのため、中国はSaaS系のサービスがあまりうまくいっていないと言われますから、慎重に考えたいところです。

── 今後目指すことについてお聞かせください。

 まだ小さな会社ですが、京都のIT企業を代表する会社になりたいと努力しています。社内では「京都で三本の指に入る企業になりたく、ゲームは任天堂、半導体は京セラ、ITはfunfo」と宣言し、本気で目指しています。

今後は京都にインターネット企業が本社を構え、全国、全世界のマーケットを取りに行くという、異なる考え方を持つ会社が増えるような場所になれば嬉しいです。